昭和天皇・マッカーサー会見


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『昭和天皇・マッカーサー会見』

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編集部だより
内容紹介

 本書の表紙にあまりにも著名な写真を掲載させていただきました.1945年9月27日の昭和天皇とマッカーサーの第一回会見当日の写真です.敗戦から約一ヶ月後に始まった両者の会見は,全部で11回に及びました.その場で何が語られたのかは,今までごく断片的にしか明らかにされてきませんでした.
 2002年8月5日の朝日新聞は,昭和天皇・マッカーサー会見の通訳を務めた故松井明氏(1908〜1994)が書き残した「天皇の通訳」(400字246枚)の写しを朝日新聞社が入手したことを報道しました.松井氏は第8回から第11回の通訳を担当,マッカーサーの後任であるリッジウェイ中将(後に大将)との全会見に同席して,一問一答方式で会見の記録を残していたのです.またこの年,第一回会見の会見記録が外務省と宮内庁によって公表されたことも重要なことでした.
 長年,昭和天皇・マッカーサー会見,そして占領期において昭和天皇が果たした「政治的役割」を実証的に解明してきた著者は,本書の「はじめに」の冒頭で,本書執筆の前提とも言うべき問題状況について以下のように述べています.
 昭和から平成に元号が変わって,早くも二〇年という歳月が流れた.しかし,戦前・戦後を通して六〇年以上にわたって昭和という時代に「君臨」した昭和天皇に対する関心は薄れるどころか,ますます高まるばかりである.そこには,いくつかの理由が考えられる.
 まず,昭和天皇にかかわる資料が国の内外において続々と発掘されていることである.本書でも詳しく紹介するように,天皇の「肉声を記録」したとされる『昭和天皇独白録』を始め,かつて天皇の側近として仕えた侍従長,侍従次長,侍従,さらには宮内庁長官などのメモや日記が公開され,あるいは研究者によって専門的な分析が加えられてきた.また,昭和天皇とマッカーサーとの第一回会見(一九四五年九月二七日)の会見記録が外務省と宮内庁によって公表され,さらに,それ以降の主要な会見の記録も新たに見出された.
 こうした新資料の発掘は国内に止まらない.米国の国立公文書館を始め各地の大学や研究所の文書資料館などにおいて,外交関係資料の探索過程の“副産物”として,これまで全く知られてこなかった昭和天皇に関する数々の重要資料が発見されてきた.かくして,以上のように新たに発掘された膨大な資料に基づいて,昭和天皇に関する研究が,日本はもちろんのこと米国など外国の研究者の手によっても飛躍的に進むことになったのである.
 ただ,昭和天皇への関心の高まりは,実は資料や研究の側面に限られるものではない.天皇の在位中における言動が,今日の政治過程にも大きな影響を及ぼしているからなのである.その契機は,何よりも小泉純一郎元首相の靖国参拝であり,繰り返された「公式参拝」は国内政治に止まらず,近隣諸国との深刻な外交問題にも発展した.さらに,小泉を引き継いだ安倍晋三前首相が掲げた「戦後レジームからの脱却」というスローガンは,昭和史への関心を改めて高めるとともに,昭和という時代の戦前と戦後のあり方を問い直す機運を生み出した.
 こうした状況を背景に,そもそも昭和天皇は東京裁判をいかに評価していたのか,処刑されたA級戦犯にいかなる「思い」を抱いていたのか,あるいは,なぜ靖国神社への参拝を中止することになったのか,といった諸々の問題への関心が高まっていった.同時に,こうした「靖国問題」は詰まるところ,アジア・太平洋戦争をいかに“総括”するかという問題であり,かくして戦争と昭和天皇との関わりが改めて根本的に問い直されようとしているのである.
 とはいえ,筆者の問題関心は何よりも,戦後史,なかでも日本が米国の占領下におかれていた時代に昭和天皇が果たした「政治的役割」の分析に注がれている.なぜなら,この“特異な環境”のもとにおける昭和天皇の言動を具体的に明らかにすることによって初めて,天皇と憲法との関係は言うまでもなく,昭和天皇にかかわる本質的な問題が鮮明に浮き彫りになってくるからである.つまり分析の焦点は,当時の内外情勢の構造的な枠組みの析出と,「政治家」としての昭和天皇がそれにいかに対応したのか,という課題にある.本書は,実質的には二〇年近くにわたって取り組んできた昭和天皇研究の,筆者なりの“総決算”である.
 以上のように,敗戦直後の昭和天皇の言行を解明していくことは,極めて今日的な意義をもっているものと思われます.そして人柄温厚な生物学者という側面だけでは語れない昭和天皇の歴史的役割,戦後日本の新たな「国体」である安保体制の構築に決定的な役割を果たした「天皇外交」の内実が本書では明らかにされます.その意味で本書は従来の昭和天皇像と戦後史観を根底から覆す衝撃力を有していると思われます.

 本書の第一章は『世界』1990年2月号,3月号に掲載された論文,第三章は『論座』2002年11月号,12月号に掲載された論文ですが,第二章と第四章は今回書き下ろされた内容で,本書は文字通り岩波現代文庫オリジナル版として初めて読者の皆様にお届けするものです.ぜひ本書をご一読ください.


著者紹介

(とよした ならひこ)
1945年兵庫県生まれ.京都大学法学部卒業.現在,関西学院大学法学部教授.
専攻=国際政治論・外交史.主著『イタリア占領史序説』(有斐閣)『日本占領管理体制の成立――比較占領史序説』(岩波書店)『安保条約の成立――吉田外交と天皇外交』『集団的自衛権とは何か』(岩波新書)『安保条約の論理』(編著,柏書房)他.


目次

第一章 「昭和天皇・マッカーサー会見」の歴史的位置
 I 第一回会見の検証
“史実”となった『回想記』/「東条問題」とその背景/内務省による会談内容の「説明」/フェラーズの覚書/マッカーサーの「回答」/キーナンと田中隆吉/ヴァイニング「日記」と重光「手記」/藤田尚徳の『侍従長の回想』/奥村勝蔵の「手記」/英国王への「親書」/一つの「結論」
 II 「空白」の戦後史
ワシントンとの対立/占領管理体制の特異性/マッカーサーの権限問題/アイゼンハワーとイタリア国王/第四回会見と「沖縄メッセージ」/天皇の憲法感覚/同時代史の特異な“空白”
第二章 昭和天皇と「東条非難」
『マッカーサー回想記』への疑問/松尾尊~論文の「推測」/公開された「御会見録」/クルックホーンへの「回答正文」/昭和天皇の“リアリズム”
第三章 「松井文書」の会見記録を読み解く
「松井文書」とその背景/第一回会見(45年9月27日)/第二回会見(46年5月31日)/第三回会見(46年10月16日)/第四回会見(47年5月6日)/松井の通訳への抜擢/第九回会見(49年11月26日)/第一○回会見(50年4月18日)/第一一回会見(51年4月15日)/天皇・リッジウェイ会見/「松井文書」が明らかにした天皇像
第四章 戦後体制の形成と昭和天皇
イタリア占領と昭和天皇/極東委員会設置の背景/『安保条約の成立』をめぐって/「天皇外交」の展開/「松井文書」と会見記録/昭和天皇の憲法認識/昭和天皇と「靖国問題」
 あとがき
 主要参考文献
 人名索引




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