| 本書の「あとがき」は実に清々しい文章で締めくくられています. |
「この仕事の中で問おうとしたことは,とても単純なことである.ぼくたちの「自分」とは何か.人間というかたちをとって生きている年月の間,どのように生きたらほんとうに歓びに充ちた現在を生きることができるか.他者やあらゆるものたちと歓びを共振して生きることができるか.そういう単純な直接的な問いだけにこの仕事は照準している.
時代の商品としての言説の様々なる意匠の向こうに,ほんとうに切実な問いと,根底をめざす思考と,地についた方法とだけを求める反時代の精神たちに,わたしはことばをとどけたい.
虚構の経済は崩壊したといわれるけれども,虚構の言説は未だ崩壊していない.だからこの種子は逆風の中に播かれる.アクチュアルなもの,リアルなもの,実質的なものがまっすぐに語り交わされる時代を準備する世代たちの内に,青青とした思考の芽を点火することだけを願って,わたしは分類の仕様のない書物を世界の内に放ちたい.」 |
| このような稀有な「あとがき」を持つ本書とは,いったいどのような本であるか,ぜひ本書を手に取っていただきたいのですが,一言でいえば愛とエゴイズムの根拠とは何かを問い詰めたのが本書だと言えるでしょう.「解説」で大澤真幸氏は次のように書いています. |
| 「エゴイズムは,人間の原初的な本性であると考えられている.どのような個人も自分自身の利益や欲望のために振る舞うのを本性としている,と広く信じられている.しかし,このような通念が否定されるのを実感できる,誰もが知っている体験もある.性愛に関する体験がそれである.性の領域では,人は,愛する他者のために生きる.自我の殻を裂開する力が,人間の本性の内にすでに書き込まれているのを,人は知るだろう.とはいえ,愛し合う二人を単位としてみれば,エゴイズムは依然として克服されてはいない.性愛は,むしろ,愛し合う者たちを拡大された「自我」とする強烈なエゴイズムとして現象する.」 |
| このような難問に向き合う上で,社会生物学,動物行動学,進化生物学で明らかにされてきた成果に依拠しつつ,極めて深い思索がつきつめられたものとして本書は執筆されたものと思われます.地球上に存在するあらゆる生命の歴史において「個体」の発生とその主体化という出来事ほど画期的な事象はないという観点から,「人間的自我」成立の過程が究明されていると思われます.それは自分の本体を解明することであるだけに,極めて透徹した問いにならざるをえなかったのではないでしょうか.本書のご一読を心よりお薦めする次第です. |