江戸の食生活

大繁盛した江戸の食べ物商売,武士の日記にみる日々の献立など,多数の資料から近世の暮らしに迫る.

江戸の食生活
著者 原田 信男
通し番号 学術212
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 学術
日本十進分類 > 歴史/地理
刊行日 2009/02/17
ISBN 9784006002121
Cコード 0121
体裁 A6 ・ 406頁
定価 1,430円
在庫 在庫僅少
大都市江戸の食べ物商売は,現代の飲食産業にも匹敵するほどの繁盛ぶり.加えて武士の日記にみる食生活,大名の饗宴の献立や,肉食の忌避とその実態,アイヌや琉球の多様な食生活など,食をめぐる江戸の生活文化を,さまざまな文献を紹介しつつ考察する.日本列島の空間的広がりのなかで,近世の食文化を大きく捉えた好著.

■編集部からのメッセージ

本書は,『歴史のなかの米と肉』などで知られる著者が,庶民はもとより大名・武士・豪農などの各階層,アイヌ・琉球・山間部・沿岸部などの地域的広がりも加味し,江戸期の食生活を大きく描き出した本です.
 特に,武蔵国忍藩(現埼玉県行田市)の武士,尾崎準之助(石城)の日記を読み解いた章は迫力があります.幕末,不遇をかこつこの下級武士は,つれづれの思いを日記に書きつづると共に,食卓に上ったものや,友と酒を酌み交わしたことなどを,時には絵も交え書き留めていたといいます.普段の食事は質素なもので,「豆腐のわずかありしを煮て朝食し」といった具合.自分で料理を作るほどの人にもかかわらず,味についての評論が皆無なのは,味に無関心なのではなく,儒教的禁欲主義によるところ大だとか.
 資料を読み解き,多様な食生活を浮き彫りにしていくその面白さはもちろん,ちょっとしたエピソードも,人間の性を表わしていて興味深いものです.
  鴨の肉を除いて代わりに豆腐を詰めて儲けたり,葛西の海苔を浅草海苔ブランドで売ったり,江戸の死貝を粕漬けにして江ノ島で売ったりと,現代の原材料偽装、産地偽装を思わせる事例も出てきます.季節を争っての初物出荷がエスカレートしすぎ,時期を制限する法令が出るなど,欲というのは際限がないものかもしれません.
 ハレとケの別がはっきりしていて,分相応なふるまいが美徳とされてはいましたが,その中でも食文化が豊かに展開した江戸期の様相をぜひ本書で味わってください.

本書は2003年11月,岩波書店から刊行された.文庫化にあたり,付論「島の食生活――伊豆諸島の場合」を新たに加えた.
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