宇宙誌

古代ギリシャから現代のホーキングまで,200億光年の時空を天才たちと共にたどる魅惑の知的大紀行.

宇宙誌
著者 松井 孝典
通し番号 学術230
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 学術
日本十進分類 > 自然科学
刊行日 2009/10/16
ISBN 9784006002305
Cコード 0144
体裁 A6 ・ 550頁
在庫 品切れ
古代ギリシャから現代のホーキングまで,人間はいかに宇宙に向き合い,自らの科学観を豊かにしてきたか.本書は200億光年の時空を天才たちと共にたどる魅惑の知的大紀行.私たちはどこから来たのか.我々とは何か.そしてどこへ行くのか.永遠と一瞬が交差する人間の一生を,46億年の地球史の中で平明に描き出す.


■編集部からのメッセージ
 本書は1993年に徳間書店から刊行されましたが,このたび岩波現代文庫に収録させていただくに際して,著者の松井孝典氏はこの十数年間の各分野での研究の進展はあるものの本書全体が現在でも十分に意味を失っていないという確信を持たれたことを「現代文庫版あとがき」で書かれています.強い意欲をもって,私たちはどこから来たのか,私たちとは何者なのか,そしてどこへ行くのかという主題を解明された本書は質量ともに抜きん出た書物になっていると思います.古代ギリシャから現代のホーキングまで,200億光年の時空を天才たちとともにたどる魅惑の知的大紀行として読者の皆様に自信を持ってお薦めできる一冊です.
 第一部では,純粋科学や応用化学の上に築かれた技術の進歩が,私達の生活に劇的な変化をもたらさざるをえなかったことを概観し(一章),とりわけ素粒子物理学,分子生物学,コンピュータ等の科学革命の意義を述べ(二章),人類の宇宙への旅(三章)とりわけアポロ計画(四章)惑星探査の進展によって明らかにされたこと(五章)について,いきいきと展開しています.ウェルズ『世界史概観』における絶望的な終末の予感に言及しつつ,地球史の中で人間の歴史をどう見るべきなのかを考察しています.新しい文明への険しい道を登りかけてはいるものの,ウェルズの絶望が杞憂に終わったのではないこと.人類の文明が宇宙にたどり着かざるを得ないという視点を提供しています(六章).
 第二部では,地球環境問題をはじめ蝕まれている地球の現在を報告しつつも現代文明に対する徒な非難は天に唾するものであることを述べ,1950年の時点で「母なる大地」の限界を憂えた林達夫の慧眼に着目しています.一方,地球環境問題に対する謬見を厳しく批判しています(六,七章)八,九章では,人類がいかに地球を認識してきたかの歴史を跡づけた後に,惑星探査機が明らかにした太陽系の驚くべき姿を紹介し,地球誕生の秘史に迫っています.同時に,地球の構造とは何か,地球はいかに今も進化しているのか,地球での生命の起源にどう迫るかという興味深い主題に迫りつつ,地球外生命の存在にも言及しながら人間の生命の神秘を視野に収めているのです(十,十一,十二章).
 第三部では時間と空間から宇宙論を捉えるという視角から,アインシュタインの理論,ビッグバン理論の紹介に始まり(十三章),古代文明と宇宙論,球殻宇宙観の崩壊を踏まえて(十四章)ニュートン以降の自然哲学観の推移を概観し(十五章),十六章では人類は新星をいかに見いだしてきたかという話題から始まり,宇宙論を大転換させたハッブルの発見について解説しています.十七章,十八章では改めてビックバン理論の意義を述べ,ホーキングの宇宙論に言及しつつ,素粒子研究,量子力学,ビッグバン理論,宇宙を支配する四つの力の統一理論の解明が進んでも,科学の名の下に明らかにできるのは,宇宙における人間の位置と物理的存在理由だけであり,人間存在の本質を問うのであれば科学と哲学との提携が必要であることを示唆して本書は結ばれています.
 各章の内容は極めて平明であり,惑星科学を専攻してきた著者の科学者としての抜きん出た総合力が,初学者にも十分に通じるような叙述として表現されています.もう一度ゼロから宇宙について知りたい,宇宙の歴史の中で人間の存在を考えてみたいという読者の欲求が満たされる貴重な書ではないかと思います.ぜひご一読いただきますようお願いいたします.
■第一部 20世紀と人間の運命
一章 20世紀はいかなる時代だったか
二章 人類の世界観を変えた科学革命
三章 人類が宇宙へ飛び立つとき
四章 人類はなぜ月を目指したか
五章 惑星探査機が見た太陽系の果て
六章 我々はどこへ行くのか ?

■第二部 地球の現在と生命の起原
七章 危機に瀕する地球
八章 人類はいかにして『創世記』を超えたか
九章 奇跡の水惑星・地球はなぜはぐくまれたか
十章 地球は明確な「意志」を持っている
十一章 原始地球モデルから生命の起源に迫る
十二章 我々はどこから来たか?

■第三部 二百億光年の歴史の中で
十三章 宇宙は有限か,無限か
十四章 ニュートンが登場するまでの宇宙観
十五章 万有引力が発見されてからの宇宙観
十六章 宇宙は膨張していた
十七章 二百億光年の彼方
十八章 我々とは何か?

岩波現代文庫版あとがき
松井孝典(まつい たかふみ)
東京大学名誉教授.千葉工業大学惑星探査研究センター所長.1946年静岡県生まれ.72年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了.専攻=複雑理工学・地球惑星科学.理学博士.著書に『新版 地球進化論』(岩波現代文庫)『新版 再現!巨大隕石衝突』『地球倫理へ』『お父さんと行く地球大冒険』(全四冊)『宇宙人としての生き方』(以上,岩波書店)『惑星科学入門』(講談社)『一万年目の「人間圏」』(ワック)『地球・宇宙・そして人間』(徳間書店)他がある.
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