橋川文三セレクション

正統派の学問では忌避されがちな人物・テーマに取り組んできた思想家橋川文三の珠玉のアンソロジー.岩波現代文庫オリジナル版.

橋川文三セレクション
著者 中島 岳志
通し番号 学術257
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 学術
日本十進分類 > 哲学/心理学/宗教
刊行日 2011/12/16
ISBN 9784006002572
Cコード 0110
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 576頁
在庫 品切れ
橋川文三(1922-83)は戦中派世代の論客として活躍するとともに,日本政治思想史の専門家として,正統派の学問では忌避されがちな人物やテーマに取り組んできた.今日,日本においてナショナリズムが亢進するなか,その独創的な研究はあらためて注目を集めている.橋川の代表的な論考が1冊で読める珠玉のアンソロジー.岩波現代文庫オリジナル版.

編集部からのメッセージ

この本の編者である中島岳志さんは,若い時に読んだ橋川文三に大きな衝撃を受けたといいます.
私は二〇歳の時に橋川文三の文章と出会った.その出会いは,まさに衝撃だった.その後の人生を変えてしまったと言っても過言ではない.橋川の文体は,私の精神を突き刺した.
なぜか.
それは,橋川の批評が彼自身に向けられていたからだ.橋川は,〈問い〉を自己の内側へと向け,自己と対峙することを通じて,言葉を外に開こうとした.その覚悟と脂汗が,暗闇の中でもがいていた私を震わせた.橋川の文章は,歴史を取り扱いながら,いつも自己を置き去りにしなかった.
橋川は人々の記憶から抹消され,置き去りにされた人々の精神を凝視した.ファシストとして葬られた人々の心性を掬い集め,そこから独自の精神史を構成していった.その精神史の中には,いつも自己がいた.橋川自身の苦渋が過去に忍び込み,そこで生じた呼応が,鋭利な批評を生み出した.
――本書「解説」より
橋川の文章のどこにそんな魅力があるのか,この本を手に取ってご自分で確かめてみて下さい.思いのほか分厚い文庫になってしまいましたが,それでもなお分量の関係でここには収録できなかった重要な作品がほかにもあります.この文庫を読んで魅力を感じた人には次にぜひ「橋川文三著作集」全10巻をひもといてみることをお勧めいたします.
なお,よく間違われますが,文三は「ぶんぞう」ではなく「ぶんそう」です.
第一章 歴史意識
  歴史意識の問題

第二章 明治国家とナショナリズム
  西郷隆盛の反動性と革命性
  日本ナショナリズムの源流
  明治のナショナリズムと文学
  乃木伝説の思想
  明治の終焉

第三章 超国家主義と全体主義
  昭和超国家主義の諸相
  昭和維新試論(抜粋)
  象徴としての政治
  昭和十年代の思想

第四章 保守主義
  日本保守主義の体験と思想
  保守主義と転向

第五章 三島由紀夫
  美の論理と政治の論理
  三島由紀夫伝

第六章 回想
  太宰治の顔
  竹内好と日本ロマン派のこと
  竹内好さんの大きさ
  竹内さんとスキーの話
  吉本像断片
  福田恆存の感傷
  ロマン派へ接近の頃
  私的回想断片
  私記・荒川厳夫詩集『百舌』について

 解説 橋川文三と内在的批評     中島岳志
 橋川文三著作一覧
橋川文三(はしかわ・ぶんそう)
1922年長崎県対馬に生まれ,広島で育った.1945年東京大学法学部政治学科卒.日本政治思想史.元明治大学教授.83年没.デビュー作『日本浪曼派批判序説』(1960)をはじめとするその著作の大半は「橋川文三著作集」(全10巻,筑摩書房,2000~2001)に収録されている.

中島岳志(なかじま・たけし)
1975年生まれ,京都大学大学院修了.北海道大学大学院法学研究科・公共政策大学院准教授.『中村屋のボース』『ナショナリズムと宗教』『ガンディーからの〈問い〉』『ヒンドゥー・ナショナリズム』ほか多数.

書評情報

週刊金曜日 2012年4月6日号
読売新聞(夕刊) 2012年2月6日
信濃毎日新聞(朝刊) 2012年1月22日
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