「尖閣問題」とは何か

なせ米国は曖昧な態度をとるのか.いかに問題を解決するのか.メディアが報じない斬新な視点で考察する.岩波現代文庫オリジナル版

「尖閣問題」とは何か
著者 豊下 楢彦
通し番号 学術273
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 学術
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2012/11/16
ISBN 9784006002732
Cコード 0131
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 302頁
在庫 品切れ
日中対立が激化するのはなぜか.メディア報道にはどこに問題点があるか.注目すべきはアメリカが曖昧な姿勢をとり続けていること.日本外交がそれを黙認している限り,状況は打開できない.「固有の領土」論や国有化では解決できない論点とは何か.外交史の権威が領土問題全体を視野に入れ,「尖閣問題」の真の解決を提言する注目の書き下ろし.岩波現代文庫オリジナル版

■編集部からのメッセージ

尖閣諸島問題をめぐって,今年に入って大きく状況が変化したことはいうまでもありません.4月に石原都知事(当時)が言明した東京都による尖閣諸島購入問題によって,尖閣諸島問題は改めて大きな関心事となりました.東京都が募った基金には,15億円に迫る勢いで寄付金が集まりました.野田内閣による国有化方針の閣議決定を経て,日本領海内に中国の海洋監視船が侵入し,日本政府による尖閣諸島国有化に抗議する中国国内の反日デモは100以上の都市に広がったのは,つい2か月前の9月のことでした.
 今も状況は変化していません.今後も外交の場で,そして尖閣諸島周辺の海上で何が起きるのかは予断を許さないものがあります.最悪の場合,日中の軍事衝突が起きないという保証はありません.
 もちろん2年前の2010年の時点でも,中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突し,外交問題に発展したという事実が存在していました.この十年を遡ってみても,この島をめぐって対立が続いてきたことは言うまでもありません.それにしても,なぜ今年これほどまでに大ニュースとして,全国民が関心を持たざるをえないニュースになってきたのでしょうか.そのこと自体を冷静に検証してみる必要がありそうです.
 本書は岩波現代文庫オリジナル版であり,全篇が書き下ろされた書物です.豊下楢彦先生は国際政治論・外交史の立場から,この尖閣諸島問題についてどのようなアプローチをしているのでしょうか.一言で言えば,尖閣諸島問題についてのメディア報道とは異質の視点で,問題にアプローチしています.国際政治論・外交史を研究する専門家として,実に広い視野と深い問いかけで,この問題を考察しているのです.
 たとえば,石原慎太郎氏がなぜこれほど尖閣問題にこだわった狙いとは何であったかが分析されています.そして日本と中国の対立が生じている中で,アメリカが実に曖昧な態度を取り続けているその真意とは何かが徹底的に抉り出されています.また日本政府の主張にある「尖閣諸島は日本固有の領土である」という主張が,実は極めて危うい論拠に立っていることも白日のもとにさらしています.そして尖閣問題だけではなく,「北方領土」問題や竹島問題も視野に収めた上で,いかにして領土問題の戦略的解決を図っていくかが構想されています.
 何としても日中両国の軍事衝突を避けなければいけないという思いで,著者はこの問題がはらんでいるあらゆる問題群に眼を配り,歴史をふりかえり,未来への提言を行っています.尖閣諸島問題について,どんな意見をお持ちの方であっても,本書から大いに刺激を受けていただくことが可能だと思っております.
 尖閣諸島の領有権をめぐる日本,中国,台湾の主張を検討した上で,歴史的にも国際法の上でも尖閣諸島が日本の領土であるという見解を著者は示しています.にもかかわらず,そのことを確認するだけでは,この問題を解決することにはつながりません.なぜなら,同盟関係にあるアメリカですら日本政府の立場をはっきりと支持していないからです.このような中で,アメリカにはっきりとした立場をとらせ,日本外交の新たな道を見出すことがいかにして可能になるのでしょうか.そのことをぜひ本書の中から読みとっていただきたいと思います.
 小社において尖閣諸島問題で書物を刊行するのは初めてです.著者渾身の一冊を読んでいただき,この問題について多くの方と語り合っていただければ幸いです.
豊下楢彦(とよした ならひこ)
1945年兵庫県生まれ.京都大学法学部卒業.現在,関西学院大学法学部教授.専攻=国際政治論・外交史.主著『イタリア占領史序説』(有斐閣)『日本占領管理体制の成立――比較占領史序説』(岩波書店)『安保条約の成立――吉田外交と天皇外交』 『集団的自衛権とは何か』(岩波新書)『昭和天皇・マッカーサー会見』(岩波現代文庫)『安保条約の論理』(編,柏書房).

書評情報

朝日新聞(朝刊) 2013年6月23日
日本と中国 2013年3月15日号
日本経済新聞(朝刊) 2013年2月24日
Catch〔釧路〕 Vol.8(2012年12月30日)
朝日新聞(夕刊) 2012年12月18日
朝日新聞(朝刊) 2012年12月2日
ページトップへ戻る