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高野悦子さんの『黒龍江への旅』(岩波現代文庫)は父・與作を追悼して1986年に書かれましたが,本書『母 老いに負けなかった人生』は96歳で亡くなった母・柳(りゅう)を追悼するものです.父の場合は,父が悔いのない人生を送ったので,心を込めた「別れの儀式」を行うことで悲しみを鎮めることができました.しかし,まだ封建性の強い時代に生きた母は教師を辞めて結婚したため悔いが残るものでした.母は自分が達成できなかった夢を娘・悦子に託しました.そんな母に著者は限りない尊敬と感謝の念をいだくのです.
父は急死だったので,私は父に対して何の介護もできなかったが,父の死後,母とは十一年一緒に過ごして,充分に介護をすることができた.この『母 老いに負けなかった人生』は,その介護と,それを通して受け取った私の幸せを綴ったものである.
父が死んでから三十一年,母が死んでから二十年が過ぎた.一九二九年五月二十九日に生まれた私は,今年八十三歳になった.九十六歳の母には及ぶべくもないが,父の年齢を超えた時は感慨深いものがあった.母の介護中には,自分が高齢者と呼ばれるようになるなど考えもしなかった.しかし,もう立派に仲間入りである.
――本書「現代文庫版あとがき」より
これから親を介護しようとする人,現に介護している人,老いや医療・介護制度を考える人,多くの人に本書は共感をもって読み継がれていくことでしょう.
高野悦子(たかの えつこ)
1929年,旧満洲大石橋生まれ.51年日本女子大学卒業.53年東宝文芸部へ入社.61年パリ高等映画学院(IDHEC)監督科卒業.68年,岩波ホール創立と同時に総支配人に就任.1997年から2007年まで東京国立近代美術館フィルムセンターの初代名誉館長.世界各国の埋もれた名画の上映に力を注ぎブルーリボン賞,菊池寛賞など多くの賞を受賞.2004年文化功労者.著書に『岩波ホールと〈映画の仲間〉』(岩波書店,近刊),『黒龍江への旅』 『私のシネマライフ』(岩波現代文庫),『女性が映画をつくるということ』『心にひびく映画』 『冬のソナタから考える』ほか.
はじめに――天狗が見初めた乙女――
第一章 母の死
第二章 父の急死で狂った人生設計
第三章 母の一回目の大病
第四章 父の残した言葉
第五章 母が痴呆症になった
第六章 説得より納得
第七章 母と私,回生の年
第八章 天から授かった映画
第九章 曾孫の誕生
第十章 猿から羊になった母
第十一章 今も青春を生きる
第十二章 最後まで子ども孝行
第十三章 公的介護システムを考える
第十四章 看護される側になって
第十五章 不死鳥のように――鶴見和子さんのこと
第十六章 七十歳の手習い
第十七章 元始,女性は太陽であった
第十八章 母と共に生きる
あとがき――別れの儀式――
岩波現代文庫版あとがき
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