義務とアイデンティティの倫理学

規範性の源泉

人はなぜ道徳的であろうと思うのか.新しい理論の提案と,著名な学者たちによる論評.

義務とアイデンティティの倫理学
著者 クリスティーン・コースガード , 寺田 俊郎 , 三谷 尚澄 , 後藤 正英 , 竹山 重光
ジャンル 書籍 > 単行本 > 哲学
刊行日 2005/03/23
ISBN 9784000225397
Cコード 3010
体裁 A5 ・ 上製 ・ カバー ・ 404頁
在庫 品切れ
人はなぜ,正しいことをしなくてはならないと思うのか.この根源的な問いに,当代一級の倫理学者が現代のアイデンティティ論をふまえた新しい理論を提案する.コーエン,ゴイス,ネーゲル,ウィリアムズら英米の著名な学者たちによる論評と,それへの応答.スリリングな議論の応酬を追うなかで倫理学の基本問題が学べる1冊.

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当代一級のカント研究者であるクリスティーン・コースガードによる4回の連続講義(第1章~第4章)と,現代倫理学を代表する四人の哲学者(G.A. コーエン,レイモンド・ゴイス,トーマス・ネーゲル,バーナード・ウィリアムズ)による,その講義への論評(第5章~第8章),そしてそれらのコメントにたいするコースガードの応答(第9章)というのが,この本の構成です.
 講義のテーマは,倫理学の基本問題である「なぜわれわれは道徳的でなくてはならないと思うのか」という問いです.コースガードは,近代以降の道徳哲学者たちがこの問いにどのように答えてきたかを概観した上で,新しい議論――カント哲学をベースに,現代のアイデンティティ論をふまえた「実践的アイデンティティ」という概念による説明――を提出します.コメンテーターたちによるさまざまな角度からの批判的なコメントと,コースガードによる応答を読み進めるうちに,この問題に対する理解を深めることができるようになります.近代の道徳哲学への入門書としても読め,シンプルな問いの奥深さを味わうことができます.

■訳者からのメッセージ

本書の魅力はいろいろあるが,まず,カント的な義務の倫理学と現代的なアイデンティティ論との興味深い総合にあると言えるだろう.コースガードは,近代の倫理学理論を,「反省的認証」という独自の観点から精密に検討したうえで,その頂点をカントの自律の倫理学に見出し,さらにそれをアイデンティティという概念を軸として展開することによって,道徳的義務の規範性という倫理学の根本問題に答えようとする.……われわれ訳者は,カント的な義務の倫理学を頑ななまでに守り抜こうとすると同時に,それを大胆に修正することによって人々を挑発するところにこそ,本書の魅力があると考える.

 次に,本書のスタイルにも心魅かれるところがある.コースガードはまず明確に問いを立て,それを一貫して追求していく.その論述は,ときに拍子抜けするほど平明な表現と身近な事例を用い,緻密だが明快に展開されている.それは,本書がもともと講義だったためでもあろうが,同じような特徴はコースガードの他の学術論文にも見られる.また,コースガードの議論に対して,現代倫理学を代表する四人の哲学者たちがコメンテーターとなって,容赦なく批判的な論評を浴びせ,それに対しコースガードは怯むことなく応じている.コースガードの明確な問題設定と明快な論述,コメンテーターの批判的論評とそれに対するコースガードの回答を読み進めるうちに,読者は倫理学の根本問題をめぐる議論に参加し,ともに考えることができるのである.

 本書が英語圏ではすでに倫理学の基本文献に数えられているのも,以上のような魅力によるところが大きいのではないだろうか.
日本語版への序文
 
緒 言 〈オノラ・オニール〉

序 論 卓越と義務 〈クリスティーン・コースガード〉
   ――西洋形而上学のごく簡潔な歴史(紀元前387年から紀元1887年まで) 
第1講 規範性の問い 〈クリスティーン・コースガード〉
第2講 反省に基づく認証 〈クリスティーン・コースガード〉
第3講 反省の権威 〈クリスティーン・コースガード〉
第4講 価値の起源と義務の範囲 〈クリスティーン・コースガード〉
第5講 理性,人間性,道徳法則 〈G.A. コーエン〉
第6講 道徳とアイデンティティ 〈レイモンド・ゴイス〉
第7講 普遍性と反省する自己 〈トーマス・ネーゲル〉
第8講 歴史,道徳,反省のテスト 〈バーナード・ウィリアムズ〉
第9講 回 答 〈クリスティーン・コースガード〉

  註
  訳者あとがき
  文献表
  索 引
クリスティーン・コースガード Christine Korsgaard
ハーバード大学哲学科教授.ハーバード大学でのジョン・ロールズの一番弟子ともいえるような存在.現代を代表するカント研究者の一人であるが,最近ではカント研究者のサークルを越えて英語圏を代表する道徳哲学者として知られるようになっている.しかし,日本では今まであまりその名前は知られておらず,著作が翻訳されるのも本書が初めてである.寺田 俊郎(てらだ としろう): 1962生.明治学院大学助教授.
三谷 尚澄(みたに なおずみ): 1974生.関西学院大学他非常勤講師.
後藤 正英(ごとう まさひで): 1974生.京都大学大学院文学研究科研修員.
竹山 重光(たけやま しげみつ): 1960生.和歌山県立医科大学助教授.
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