日本労使関係史

1853-2010

「日本型雇用システム」として世界的に喧伝された雇用形態の形成と変容の過程を,一五〇年に亘って分析.

日本労使関係史
著者 アンドルー・ゴードン , 二村 一夫
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2012/08/07
ISBN 9784000242936
Cコード 3021
体裁 A5 ・ 上製 ・ カバー ・ 556頁
在庫 品切れ
1980年代に「日本型雇用システム」として世界的に喧伝された雇用形態(「終身雇用」「年功序列型賃金制」「企業福祉」「企業別労働組合」……)はいかに形成され,そして変容し現在に至ったのか.労働者・経営者・官僚の相互関係に注目し,彼らが目的・利害をめぐって争い妥協してきた150年に亘る日本労使関係を描いた決定版.

■著者からのメッセージ

この本は、近代産業の黎明期から21世紀初頭まで、日本の労使関係の展開を跡づけた作品です。序章から第10章までは、1985年に英語で刊行したThe Evolution of Labor Relations in Japan: Heavy Industry, 1853-1955 の全訳です。ただ私は、この日本語版のために2つの章を新たに執筆し、原著書が対象とした時期以降、つまり1950年代から2010年までの半世紀余を書き加えました。このように本書は日本の労使関係の通史ですが、同時に史料的な裏付けをもった事例研究でもあります。対象としたのは、すべて京浜地帯に立地する造船、電機、鉄鋼の民間企業です。
 この本は、労使関係の歴史を、当事者である労働者、資本家および官僚が、時には公然と争い、またある時は穏やかな交渉によって、その利害を調整してきた過程として描いています。三者はもちろん対内的に一枚岩ではなく、重大な内部対立をかかえた時さえあります。本書は、日本特有の労使慣行は、これら当事者間の数十年もの長期におよぶ相互関係の中から生じたことを論じています。
 おそらく、この本の最重要な論点は、いわゆる日本的雇用システム形成の上で、工業労働者の主導性や思考が重要な役割を果たした事実を明らかにしたことでしょう。原著の刊行前にはほとんど認識されていませんでしたが、工業労働者は、労働争議のように組織化された抵抗や、転職といった小さな「抵抗」行為を通じて、日本型雇用システムと呼ばれるようになった制度を創出する上で重要な役割を果たしたのです。
 今や、日本の経済・社会システムは、かつてのような楽観的展望をもちえない時代を迎えています。したがって本研究の意義も、原著書刊行の時点と同じではあり得ないでしょう。しかし著者としては、読者が本書に何らかの今日的意味を見出されることを期待しています。本書が増補版という形をとって、原著刊行から四半世紀余を経て翻訳されたことは、まことに大きな喜びであると同時に、驚きでもあります。
 今日に至るまで、私は多くの方々に助けられてきました。しかしここでは、誰よりも、訳者であると同時に私の師であり、かつまた長年の親しい友人である二村一夫教授に心からのお礼を申し上げたいと存じます。

アンドルー・ゴードン
日本語版への序文/謝辞
凡例
序章
第Ⅰ部 産業革命期の労働者と経営者
第1章 工業労働者の組織化
第2章 温情主義と直接的管理
第3章 労務管理改革と労働運動――1917~1921
第Ⅱ部 労働者と経営者――戦間期における雇用制度
第4章 渡り職工の消滅?――採用と長期雇用
第5章 賃金制度の複雑化
第6章 企業共同体――会社,組合,労働者階級
第Ⅲ部 戦時の労使関係と政府
第7章 長期雇用と統制賃金
第8章 産報――労働組合不在の労働者組織
第Ⅳ部 戦後の決着
第9章 組合主導の労使関係
第10章 経営主導の労使関係
第Ⅴ部 労使関係――高度成長期とその後
第11章 日本型労使関係のヘゲモニー
第12章 日本型労使関係の終焉?
結論
訳者あとがき

インタビュー対象者一覧/主要参考文献一覧
索引

アンドルー・ゴードン(Andrew Gordon)
1952年ボストン生まれ.ハーバード大学助教授,デューク大学教授を経て1995年からハーバード大学年と2011~12年ライシャワー日本研究所所長.専攻は日本近代史.主な邦訳書に『日本の歴史学部教授.1998~2004 200年――徳川時代から現代まで』(全2冊,みすず書房,2006年),『日本人が知らない松坂メジャー革命』(朝日新聞社,2007年)がある.最近作のFabricating Consumers: The Sewing Machine in Modern Japan (University of California Press,2011)は『ミシンと20世紀日本』(仮題)として,2013年にみすず書房から刊行予定.
二村一夫(にむら かずお)
1934年長野県生まれ.法政大学名誉教授,同大学大原社会問題研究所名誉研究員.専攻は労働史.主著は『足尾暴動の史的分析』(東京大学出版会,1988年,労働関係図書優秀賞),The Ashio Riot of 1907 (Duke University Press, 1997),『労働は神聖なり,結合は勢力なり――高野房太郎とその時代』(岩波書店,2008年,社会政策学会学術賞および冲永賞).

書評情報

日本労働研究雑誌 No.636(2013年7月)
日本経済新聞(朝刊) 2012年10月7日
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