DNAで語る 日本人起源論

私たちは何者で,どこから来たのか――最新のDNA分析結果から解き明かす「日本人」の起源.

DNAで語る 日本人起源論
著者 篠田 謙一
通し番号 73
ジャンル 書籍 > 岩波現代全書 > 歴史・伝記
刊行日 2015/09/18
ISBN 9784000291736
Cコード 0345
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 268頁
在庫 品切れ
新たな古人骨の発掘,DNA分析技術の革新により,分子人類学の研究は近年めざましい発展を遂げている.アフリカを旅立った人類は,どのように世界中に拡散したのか.謎の人類デニソワ人とは.東アジア集団と日本人との遺伝的関係性は.そして縄文人とは一体何だったのか.最新の遺伝子解析結果から,「日本人」の起源を解き明かす.


■編集部からのメッセージ
 学校の世界史でいちばんに学ぶのは,人類の誕生についてです.まずアウストラロピテクスがいて,そのあと北京原人,ネアンデルタール人,クロマニョン人が出てきて,そして最後に私たちホモ・サピエンスが生まれた…….私自身の記憶ではその際ホモ・サピエンスは先行する他のヒト属とは交わらず(むしろ駆逐して?),ただひとり現存する「ヒト」として生き残ったと教わったように思います.それを聞いた私は,なんとも寂しい気持ちになったことを覚えています.人間の歴史はどうやら孤独から始まったらしい,とそんな風にも感じました.
 ところが,そうではなかった.なんとホモ・サピエンスはネアンデルタール人と,本当は「交雑」しており,私たちにも多かれ少なかれネアンデルタール人のDNAが含まれているというのです.しかもそれだけでなく ,近年ロシアで発見された未知の人類「デニソワ人」とも,どうやらホモ・サピエンスは交雑していたらしい.かつてミトコンドリアのDNAしか調べることができず,その技術的な限界のなかで導かざるを得なかった学説の数々が,いまや技術革新により核DNAまで詳細に解析できるようになったことで,大きく塗りかえられてきています.
 本書はそのような最新の研究結果にもとづく,驚きの新事実・新知見に充ちみちた一冊です.と同時に,人類のアフリカでの誕生から,彼らの出アフリカ,東アジアへの拡散,そしてアジアの東端に位置するこの島での「日本人」の形成まで,私たちが生物学的に拠って立つその来歴を,幅ひろい人類史の流れのなかで大きく見通す壮大なスケールの一冊でもあります.
 「日本人」という便宜上の概念を,「人類」という大きな概念のもとで捉えなおし,さらにその「人類」をネアンデルタール人やデニソワ人ら「他のヒト」たちと結びつけるこの本は,私たちをいわば新たな「人類観」へと誘います.本書をつうじて皆さまとこの新しい視野を分かち合えることを願います.
序章 私たちはどこから来たのか
ゴーギャンとデュボア/化石研究が明らかにした人類の由来/世界に広がるさまざまな人類/自分の中に由来を探す

第1章 DNAを読む
ミトコンドリアDNA研究の発展/多地域進化説と新人のアフリカ起源説/人類拡散の足跡をたどる方法/コラム1 ハプログループ/核ゲノムの解析/コラム2 SNPとは/新技術による全ゲノム解析/コラム3 次世代シークエンサー

第2章 アフリカの物語
人類揺籃の地/アフリカ人のDNAが語ること/農耕の誕生と移動/気候変動と移動/環境と遺伝子/ルーツを探る

第3章 出アフリカの後の展開
出アフリカ/世界の人びと,文化を見る視点/「親戚たち」との遭遇/混血の証明/デニソワ人の登場/交雑する人類/ゲノムからホモ・サピエンスを理解する/ホモ・サピエンスを決める遺伝子/ネアンデルタールゲノム解析の将来

第4章 アジアへの道
アジアへの経路/南アジアのDNA/南アジア集団の成立/スンダランドへの進出/気候の変動,地形の変化とヒトの移動/オーストロネシア語族の拡散

第5章 東アジア集団の成立と移動
東アジア集団の移動の諸相/最初の東アジア人/最初にシベリアに進出した集団/ヨーロッパと東アジアの交流/新大陸への進出/ゲノム研究が明らかにする新大陸先住民の歴史/農耕の拡散と集団の移動

第6章 日本人の起源と成立を考える
人類拡散史のなかの日本列島人/これまでの日本人起源論/二重構造説のもつ視点/最初の日本列島人

第7章 現代日本人のもつDNA
現代日本人のもつミトコンドリアDNA/日本人のY染色体DNA/日本人の核ゲノム

第8章 日本列島南北の地域集団の成立
琉球列島集団の成立――白保人骨が語る南方からの渡来/その後の琉球列島の歴史――貝塚時代/グスク時代の沖縄/北海道集団の起源/アイヌ集団のミトコンドリアDNA分析/アイヌ集団に見られる地域性/集団の歴史と民族,そして人種という概念

第9章 本土日本人の成立
縄文早期人のミトコンドリアDNA/縄文前期人のミトコンドリアDNA/縄文中後晩期人のミトコンドリアDNA/縄文人のミトコンドリアDNAの特徴/縄文人のゲノム解析/渡来系弥生人/ゲノム解析から見た渡来系弥生人

第10章 歴史時代の日本人
縄文時代から弥生時代への移行のプロセス/古墳時代人のもつミトコンドリアDNA/中世鎌倉のミトコンドリアDNAの特徴/江戸時代人のミトコンドリアDNA/徳川家のミトコンドリアDNA/これからの日本列島集団

第11章 DNA人類学の今後の展開
DNA人類学の現在/ミトコンドリアDNA分析が描くヨーロッパ人の起源/アイスマンのゲノム/ヨーロッパ人の古代ゲノム解析/おわりに

あとがき
参考文献
篠田謙一(しのだ けんいち)
1955年生まれ.京都大学理学部卒.産業医科大学医学部助手,佐賀医科大学助教授を経て,現在,国立科学博物館人類研究部長.博士(医学).専門は分子人類学.著書に『日本人になった祖先たち』(NHK出版),編著に『化石とゲノムで探る人類の起源と拡散』(日経サイエンス),『インカ帝国――研究のフロンティア』(東海大学出版会)などがある.

書評情報

日本経済新聞(朝刊) 2015年11月29日

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