インテリジェンスの世界史

第二次世界大戦からスノーデン事件まで

第二次大戦から今日まで,通信傍受技術の飛躍的な発展と,米英を中心とした通信傍受網の変遷の現代史.

インテリジェンスの世界史
著者 小谷 賢
通し番号 79
ジャンル 書籍 > 岩波現代全書 > 政治・経済・現代社会
刊行日 2015/12/17
ISBN 9784000291798
Cコード 0331
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 222頁
在庫 品切れ
諜報活動の主目的は,第二次大戦では対独・対日戦の勝利,冷戦期はソ連対策,冷戦後は湾岸戦争と同時多発テロを契機としてのテロ対策であった.国を越えた情報協力が緻密化しビッグデータの活用が拡大するなか,スノーデン事件は情報戦の危険性を警告している.通信傍受技術の飛躍的な発展と米英を中心とした通信傍受網の現代史.


■編集部からのメッセージ
 「インテリジェンス」というと,かつては「ああ,007のスパイの話か」という捉え方が大半だったように思う.最近では元外務省主任分析官の佐藤優氏のようなインテリジェンスのプロや,元NHKアメリカ総局長の手嶋龍一氏のようなインテリジェンスの世界に詳しい書き手の本が多く読まれることによって,スパイだけでなく通信傍受や情報管理全般を指す言葉であることが認知されてきた.さらに元CIA工作員のスノーデンの告発,特定秘密保護法,NSC設置法の制定などにより,インテリジェンスについての関心がにわかに高まりつつある.
 とはいえ,小社がインテリジェンスの本を出すということに違和感を覚える読者は,少なくないだろう.戦後日本においては,インテリジェンスという言葉はなじみが薄く,その研究も少なく,大学でも情報学・インテリジェンス学についての講義はほとんど設けられていない.政治学・安全保障・軍事史などの分野の基礎にインテリジェンス学が置かれている欧米などの政治システムや学問・教育風土との大きな違いである.日本では戦前の特務機関や特高などのイメージが強く,スパイや謀略・陰謀工作を連想してしまうためと,戦後の平和がそのような研究への忌避感を醸成したためであろう.とりわけ小社のような戦争に対する反省と,そのうえに立っての平和を希求する出版理念に照らせば,インテリジェンスは平和と裏腹の関係にあるように受け取られがちである.
 しかしながら,インテリジェンスの世界に精通しておくことは,これからの日本の安全保障を構築する上で,重要な,欠くべからざる条件になるように思う.そもそもインテリジェンスの本質は,様ざまな手段で収集した無数のデータ(インフォメーション)から有益な情報を抽出・加工し,政策決定サイドに政策の企画・立案・遂行のための知識(インテリジェンス)を提供することにある.このことはあらゆる学問において通用する,客観性・科学性を担保するうえで必須の常識である.国家にとっての情報という観点から言えば,政治学・国際関係論の研究の基礎にある考え方である.
 武器による紛争という手段を取らずに,『孫子』の一節にあるように「戦わずして勝ち」,争わずして共存するための,国家間の矛盾を最小限に抑えて紛争を予防する平和のための知恵である.
 とはいえ,本書を読めば日本のインテリジェンスはファイブアイズ(米・英・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド)からすれば,はるかに遅れを取っている.その理由が,第2次大戦での日本の敗戦と,その後の冷戦構造にあったことが分かる.インテリジェンスの現代史を知ることは,情報をめぐる戦後世界のヘゲモニーを構造的に理解することにつながるのである.
馬場公彦
序章

第1章 通信傍受と暗号解読の歴史
1 通信傍受の歴史
2 第二次世界大戦までの米英の暗号解読活動

第2章 米英インテリジェンス同盟の構築
1 米英情報協力の始まり
2 第二次世界大戦の終結とUKUSA協定

第3章 対共産圏の通信傍受包囲網――冷戦前半期
1 NSAの誕生
2 ファイヴ・アイズの成立
3 冷戦初期のUKUSA
4 対ソ情報収集活動の進展――スエズ危機,ベルリン・トンネル作戦
5 拡大する通信傍受活動――キューバ危機,ヴェトナム戦争

第4章 進化する通信傍受技術――冷戦後半期
1 通信傍受手法の技術的進展――通信衛星,海底ケーブル
2 UKUSA間の軋轢――デタントの波紋
3 人口に膾炙するUKUSA
4 ソ連への機密漏洩
5 苦悩するGCHQ

第5章 変容を迫られるUKUSA――冷戦後
1 変化するUKUSA――湾岸戦争,情報組織に対する監視
2 同時多発テロの衝撃――9・11,イラク戦争,スノーデン事件

終章

あとがき
参考文献/略語表
小谷 賢(こたに けん)
1973年京都生まれ.立命館大学国際関係学部卒業,ロンドン大学キングス・カレッジ大学院修了,京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了.防衛研究所戦史部教官,英国王立防衛安保問題研究所(RUSI)客員研究員を経て,防衛研究所戦史研究センター主任研究官・防衛大学校講師(兼務).『イギリスの情報外交――インテリジェンスとは何か』(2004年,PHP新書),『日本軍のインテリジェンス――なぜ情報が活かされないのか』(2007年,講談社選書メチエ),『モサド――暗躍と抗争の60年史』(2009年,新潮選書),『インテリジェンス――国家・組織は情報をいかに扱うべきか』(2012年,ちくま学芸文庫).

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