コンサートという文化装置

交響曲とオペラのヨーロッパ近代

近代のクラシック・コンサートとそれを取り巻く諸要素をヨーロッパ全域にわたり歴史的に分析する.

コンサートという文化装置
著者 宮本 直美
通し番号 85
ジャンル 書籍 > 岩波現代全書 > 文学・芸術
刊行日 2016/03/17
ISBN 9784000291859
Cコード 0373
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 262頁
定価 2,420円
在庫 在庫あり
従来の声楽優位に代わって交響曲を中心とする器楽演奏がクラシック・コンサートのメインとなったのはいつどのような理由によるのか.器楽優位を支える論理の発生やオペラ(歌劇)の変容,演奏者や聴衆(消費者)の変化など,近代の文化装置としてのコンサートとそれを取り巻く諸要素を,ヨーロッパ全域にわたり歴史的に分析する.


■編集部からのメッセージ
 今夕のコンサートのメイン・プログラムである交響曲も終楽章となり,会場は最高潮を迎えている.聴衆は各々オーケストラが表現する過去の偉大な作曲家のテーマに思いを馳せ,訪れた静寂の次の瞬間,指揮者に盛大な拍手を贈る.そして,度重なるカーテンコールに応えた後おもむろに,用意されたアンコールの演奏が始まる….
 こうした現在の演奏会の姿が出来上がったのはさほど昔のことではない.従来の声楽優位に代わって交響曲を中心とする器楽演奏がクラシック・コンサートのメインとなったのはいつどのような理由によるのか.器楽優位を支える論理の発生やオペラ(歌劇)の変容,演奏者や聴衆(消費者)の変化など,近代の文化装置としてのコンサートとそれを取り巻く諸要素を,ヨーロッパ全域にわたり歴史的に分析する.
序章 交響曲はいかにしてコンサートの主役になったのか
1 コンサートをめぐる問題
2 「絶対音楽」の理念と戦後のドイツ音楽学
第一章 言葉にできない音楽
1 ロマン主義美学とミメーシスからの解放
2 音楽ジャーナリズムの隆盛と音楽語り
第二章 オペラの覇権
1 ヨーロッパを制したオペラ
(1)一九世紀前半のオペラ人気
(2)宮廷オペラと商業オペラ
(3)作曲家の成功とオペラ
(4)国際的スターとしてのオペラ歌手
2 階級を超えるオペラ――ビジネスと大衆性
(1)社会の縮図としてのオペラ劇場
(2)社会的行事とビジネス――パリ・オペラ座改革
(3)劇場の格付けとサブジャンル
3 オペラの柔軟性
(1)オペラ公演の「現地主義」――自由な改変
(2)オペラ断片的受容――劇場から街へ家庭へ
(3)オペラの著作権とレパートリー化――「作品」への意識
第三章 コンサート市場を成立させたもの
1 コンサートにおける器楽とオペラ
(1)コンサートの歴史
(2)序曲とヴィルゥオーゾ
2 コンサートのエリート主義とポピュラー化
(1)ベネフィット・コンサート――器楽奏者の収入源
(2)オーケストラ・シリーズの誕生
(3)大衆化するコンサート――交響曲を「ポピュラー」に
3 オペラ頼みのプログラムと過去の音楽
(1)コンサート・プログラム――交響曲を聴く困難
(2)「クラシック」市場の成立――故人作曲家の人気
第四章 交響曲の正当化と受容
1 反復される交響曲
(1)交響曲の理論化――A・B・マルクス
(2)ベートーヴェン受容を準備したロッシーニ
(3)音楽の「クラシック」と教養主義――何度も聴くことのすすめ
2 聴くことと理解すること
(1)ヴィルトゥオーゾ批判と作曲家の権威――消えてゆく即興演奏
(2)プログラム再編――「統一」を聴く
(3)沈黙する聴衆
3 交響曲の国際的受容
(1)ドイツ音楽美学の移植と出版界――啓蒙と商売
(2)交響曲の共同性と公共性
第五章 言葉にできない音楽の言葉による領有
1 代弁する批評家の共同体 
2 楽譜の正典化と演奏家の制限
3 イベントとテクスト――普遍言語としての音楽

参考文献
あとがき
宮本直美(みやもと なおみ)
1969年生.東京藝術大学大学院音楽研究科音楽学専攻修士課程修了.東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了.博士(社会学).東京大学文学部助手を経て,現在立命館大学文学部教授.専門は音楽社会学・文化社会学.『教養の歴史社会学:ドイツ市民社会と音楽』(岩波書店 2006),『宝塚ファンの社会学:スターは劇場の外で作られる』(青弓社 2011)ほか.
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