『七人の侍』と現代

黒澤明 再考

日本映画を代表する古典的名作『七人の侍』は,いまなお世界中で受容されている.現代にどうみるか.

『七人の侍』と現代
著者 四方田 犬彦
通し番号 新赤版 1255
ジャンル 書籍 > 岩波新書 > 芸術
刊行日 2010/06/18
ISBN 9784004312550
Cコード 0274
体裁 新書 ・ 並製 ・ カバー ・ 222頁
在庫 品切れ
日本映画を代表する古典的名作として,幾重にも栄光の神話に包まれている黒澤明の『七人の侍』.しかし世界のいたるところで,いまなお現代的なテーマとして受容され,その影響を受けた作品の発表も続く.制作過程や当時の時代状況などを考察し,映画史における意義,黒澤が込めた意図など,作品の魅力を改めて読み解く.


■黒澤明生誕100年! 不朽の名作をいまどうみるか

 黒澤作品を代表する名作といえば、やはり『七人の侍』を挙げる声が圧倒的です。1954年に公開され、同年ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を獲得したこの作品は、黒澤の代表作という枠を越えて、日本映画を代表する名作として評価されています。
 日本では、もはや「古典的名作」として評価の定まっている感のある同作品は、しかし、世界のいたるところで、いまもなお現代的なテーマとして熱狂をもって受けいれられています。「古典」ではなく、「現役」の作品として、人々にみられ続けているのです。著者はキューバやパレスチナ、セルビアなどで、黒澤作品が「現役」として生きていることを体験しました。また、『七人の侍』の影響を受けた作品が、アジアを中心にいまなお発表され続けていることから、改めてこの作品に向き合うことを決意しました。
 なぜ、世界のいたるところで、いまなお熱狂的に受容されているのか。本書は、『七人の侍』のつくられた時代背景、制作の過程、黒澤が込めた意図などを丹念に追いながら、この作品の魅力を大胆に読み解きます。そして、現代において、私たちはこの作品にどう向き合うかを考えます。
 今年(2010年)は黒澤明生誕100年にあたります。記念の年にふさわしい、斬新な作品論、黒澤論となっています。ぜひお読みいただければと思います。
 プロローグ

第1章 黒澤明、ふたたび
「最後の太陽が堕ちた」/神話化と違和感/パレスチナ・イスラエルに生きる黒澤作品/ユーゴラスビア紛争と『七人の侍』

第2章 映画ジャンル化した『七人の侍』
映画ジャンルが創設されるとき/物語の原型としての『七人の侍』/『荒野の七人』への異動/アジア映画への影響/ナショナリズムの表出/日本ではアニメとして/アクチュアルと普遍の共存

第3章 1954年という年
制作当時の日本社会とは/占領から「独立」へ/引揚げ者の存在/原水爆実験への脅威/国防問題への関心/占領政策と日本映画/東宝争議の傷跡/知識人と大衆の溝/時代の文脈の中で

第4章 構想と制作
放棄された二つの構想/『七人の侍』の粗筋/困難に直面する撮影/撮影の手法/作曲家との齟齬

第5章 時代劇映画と黒澤明
「時代劇」の誕生/殺陣における三つの改革/多様化する主題/黒澤の「時代劇」観―二つの脚本にみる/「時代劇」の痛烈な批判/殺陣の廃棄の後に

第6章 侍の表象
勘兵衛―理想的な指導者/勝四郎―経験未熟な若侍/五郎兵衛―豪傑の末裔/七郎次―勘兵衛の忠実な部下/平八―小心の侍/久蔵―規範的な侍

第7章 百姓、そして菊千代
百姓たちの登場/百姓たちの人物像/侍との出会い/百姓と侍との溝/透明な眼差し/百姓と侍の中間領域として/菊千代という存在/パッシング文学、マラーノ文学との類似性/浮浪児たちが屯していた時代に

第8章 敵ははたして敵か?
野伏せという「敵」/日本史研究の中の百姓像/武装していた百姓/浪人と野伏せの境界/絶対的な悪としての野伏せ/日本映画における敵の表象の不在/勧善懲悪へのこだわり

第9章 敗北と服喪
戦闘における精神主義の否定/戦闘の後に/黒澤明への問い/「善意の農民」の否定/軍隊と兵士、死と敗北のテーマ/死者の服喪と映画

第10章 栄光の神話と孤立
公開直後の反応/「再軍備映画」という見方/相次ぐ当惑と失望の声/黒澤の神話化と作家主義/リアリズムとしての評価/バーチによる批判的評価/『七人の侍』が残したもの

 あとがき
四方田犬彦(よもた・いぬひこ)氏は、1953年西宮市に生まれる。東京大学人文系大学院博士課程修了。専攻は比較文学・比較文化。コロンビア大学、ボローニャ大学、テルアヴィヴ大学などで客員研究員・教授を転々とし、現在は明治学院大学教授として映画史の教鞭を執る。
 主な著書に『大島渚と日本』(筑摩書房)、『ソウルの風景―記憶と変貌』(岩波新書)、『アジアのなかの日本映画』 『映画史への招待』(岩波書店)、『見ることの塩』(作品社)など。『日本映画は生きている』全8巻(岩波書店)を編集する。またサイード、ダルウィッシュ、パゾリーニの翻訳がある。

書評情報

朝日新聞(be) 2014年1月4日
歴史地理教育 2011年2月号
読売新聞(朝刊) 2010年9月19日
北海道新聞(朝刊) 2010年9月5日
日本農業新聞 2010年8月2日
週刊東洋経済 2010年7月24日号
サンデー毎日 2010年7月18日号
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