南に向かい,北を求めて

チリ・クーデタを死にそこなった作家の物語

南北アメリカを往復して育った著者は,やがてチリの革命に身を投じるが,クーデタに襲われる…….作家が辿った精神的彷徨の物語.

南に向かい,北を求めて
著者 アリエル・ドルフマン , 飯島 みどり
ジャンル 書籍 > 単行本 > 文学・文学論
刊行日 2016/06/22
ISBN 9784000248808
Cコード 0098
体裁 四六 ・ 510頁
在庫 品切れ
二つのアメリカ,二つの言語を往還して育った著者は,やがてチリの革命に身を投じる.だが,軍事クーデタが勃発,命の危機に直面して…….『死と処女』等で知られる作家が自らの精神的な彷徨の軌跡を綴った本書は,アジェンデ社会主義政権の終末をめぐる証言であるとともに,英語と米国が覇権をにぎる時代の経験を浮かび上がらせる物語.


■編集部からのメッセージ
 破壊されて大きく穴の開いたバルコニーには,漆黒の闇が広がっています.見ている自分がその闇に吸い込まれてしまいそうな感覚すら抱きます.本書のカバーには,そうした写真を使用しました.これは,1973年9月11日の軍事クーデタで空爆された,サンティアゴのモネダ宮(チリ大統領府)の正面部分の写真です.カバーの裏には,同じモネダ宮の3年前の写真を掲載しました(どうぞ手にとってご覧いただければと思います).
 著者のアリエル・ドルフマンは,チリ軍事政権下の人々の苦悩を描いた戯曲『死と処女』『谷間の女たち』や,文化帝国主義論の先駆的研究『ドナルド・ダックを読む』をはじめ,多方面の著作活動で知られる作家です.ユダヤ系の両親のもとブエノス・アイレスで生まれた彼は,南アメリカと北アメリカ,スペイン語と英語を往復し,自ら名前を二度も変えながら育ちますが,やがてチリのアジェンデ大統領率いる社会主義政権の下での革命に身を投じます.しかし,1973年9月11日に軍事クーデタが勃発,身の安全が危ぶまれる中,亡命を決断します.
 本書は,クーデタの前夜から亡命に至るまでの3カ月と,アルゼンチンでの出生から二度の渡米を経てチリに命を懸けるまでの30年の二つの時間を,交互に回想していくものです.スペイン語と英語,生と死,政治と文学の背反を乗り越えようと苦悶する作家の姿が浮かび上がります.また,チリ革命の挫折と向き合う悔恨の証言であるとともに,英語と米国とが覇権を握る20世紀という時代を体現させられた運命の物語と言えます.
 訳者の飯島みどりさんは,エドゥアルド・ガレアーノの『火の記憶』(全3巻,みすず書房)の訳業で高く評価されていますが,本書においても著者の文体を見事に日本語に移し替え,まさに名訳と言える文章になっています.本書には,日本語版の付録として原著刊行後に発表された二つのエッセイも収録しました.
 まえがき代わりの献辞

第一部 北と南
 一.幼くして死の存在に出会う章
 二.幼くして生とことばに出会う章
 三.一九七三年九月十一日早朝のサンティアゴ・デ・チレにおいて死に出会う章
 四.一九四五年のアメリカ合州国において生とことばに出会う章
 五.一九七三年九月十一日晩い朝のサンティアゴ・デ・チレにおいて死に出会う章
 六.一九四五年から一九五四年のアメリカ合州国において生とことばに出会う章
 七.一九七三年九月一三―一四日のサンティアゴ・デ・チレにおいて死に出会う章
 八.一九五四年から一九五九年のサンティアゴ・デ・チレにおいて生とことばに出会う章

第二部 南と北
 九.一九七三年九月のサンティアゴ・デ・チレにおいて死に出会う章
 十.一九六〇年から一九六四年のサンティアゴ・デ・チレにおいてにおいて生とことばに出会う章
 十一.一九七三年のサンティアゴ・デ・チレにおいて某大使館の敷地外で死に出会う章
 十二.一九六五年から一九六八年のサンティアゴ・デ・チレにおいて生とことばに出会う章
 十三.一九七三年十月のサンティアゴ・デ・チレにおいて某大使館敷地内で死に出会う章
 十四.一九六八年から一九七〇年のカリフォルニア州バークレイにおいて生とことばに出会う章
 十五.一九七三年十一月初めのサンティアゴ・デ・チレにおいて某大使館の敷地内外で死に出会う章
 十六.一九七〇年から一九七三年のサンティアゴ・デ・チレにおいて生とことばに出会う章
 終章 生とことばと死とにいまひとたび出会う章

 謝辞
 日本語版のための付録
 さよなら,おじいちゃん
 孫たち
 訳者あとがき
アリエル・ドルフマン(Ariel Dorfman)
ユダヤ系の両親のもと1942年ブエノス・アイレスに生まれ,子ども時代をニュー・ヨークに送る.1954年チリに移り住み,チリ大学を卒業,同大学で教鞭をとる.1968~69年カリフォルニア大学バークレイ校大学院に留学.チリへ戻り,1970年サルバドル・アジェンデ大統領率いる社会主義政権が成立すると,文化補佐官として勤務.1973年9月11日の軍事クーデタを受け,アルゼンチン大使館に身を寄せ,以後パリやアムステルダム等で亡命生活を送る.1985年より米デューク大学教授.1990年の民政移管後はチリと合州国を往復する.軍事政権下の人々を描いた戯曲『死と処女』『谷間の女たち』『ある検閲官の夢』の「抵抗三部作」が高く評価される.訳書に『ドナルド・ダックを読む』(共著),『子どものメディアを読む』(以上,晶文社),『マヌエル・センデロの最後の歌』,『ピノチェト将軍の信じがたく終わりなき裁判――もうひとつの9・11を凝視する』(以上,現代企画室),『世界で最も乾いた土地――北部チリ,作家が辿る砂漠の記憶』(早川書房),戯曲台本に『死と乙女』(劇書房),『谷間の女たち』(新樹社).

飯島みどり(いいじま みどり)
1960年生まれ.ラテンアメリカ近現代史.立教大学教員.訳書にサルマン・ラシュディ『ジャガーの微笑――ニカラグアの旅』(現代企画室),歴史的記憶の回復プロジェクト編『グアテマラ 虐殺の記憶――真実と和解を求めて』(共訳,岩波書店),エドゥアルド・ガレアーノ『火の記憶』(全3巻,みすず書房)ほか.
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