藤村詩抄

藤村詩抄
著者 島崎 藤村 自選
通し番号 緑23-1
ジャンル 書籍 > 岩波文庫 > 緑(現代日本文学)
日本十進分類 > 文学
刊行日 1995/04/17
ISBN 9784003102312
Cコード 0192
体裁 文庫 ・ 240頁
定価 704円
在庫 在庫あり
日本の近代詩の出発点となった島崎藤村の詩は,近代日本の自覚期ともいうべき歴史的青春と,詩人および人間としての人生の青春と,詩の文芸ジャンルとしての若さとが相まって生み出された比類のない青春文学である.『若菜集』『一葉舟』『夏草』『落梅集』などより自選.各詩集初版本目次と校異を付す. (解説 吉田精一)


■「解説」より
 詩人藤村は,日本近代詩の母といわれる.日本の近代詩は藤村にはじまったとはいえないまでも,彼によってはじめて創作詩としての芸術上の開眼を行われ,独立した文芸ジャンルの一としての意義を確立し得たとはいえるのである.
 藤村の詩,ことに『若菜集』は,一口にいえば青春の文学である.これは定評になっていて今さらいうまでもない.ただ青春の歌は常にあるが,『若菜集』ほどの青春の歌は稀にしかない.近代詩の自覚期ともいう歴史的青春と,詩人および人間としての人生の青春と,詩の文芸ジャンルとしての若さがうち合って,ここに比類ない詩業をうんだのだのである.それは性質としては封建的な制約の殻を破って,感情や感覚の自由な解放を要求したものだといえる.主情的なロマンティクトしての藤村は,しかしそうした情熱を奔放に,主観的に絶叫したのではなかった.むしろそれをじっと抑えつけて,感情の浪費と消耗とを避け,情感を整調してうたの言葉に現わそうと試みた.現わす場合には激しい憤りや怨みやを一切底に沈めて,潔らかな流れのようにして現わした. ひとつの水のうねりの底からの動きが現われたものであった』(河井酔茗)のである.
 即ち,当時隆盛だった擬古派の詩のように,ことばに綺羅をかざり,形式の勝った種類のものではなく,ありあまる情感を内に秘めて,つつましやかに嗟嘆するところから生まれる内攻的な美しさであった.
吉田精一
自序
抄本を出すにつきて

■『若菜集』より
序のうた/草枕/二つの声/松島瑞巌寺に遊びて/春 一 たれかおもはむ 二 あけぼの 三 春は来ぬ/四 眠れる春よ/五 うてや鼓/明星/潮音/おえふ/おきぬ/おくめ/おつた/おきく/酔歌/哀歌/秋思/初恋/狐のわざ/髪を洗へば/君がこゝろは/傘のうち/秋に隠れて/知るや君/秋風の歌/雲のゆくへ/合唱 一 暗香 二 蓮花舟 三 ぶどうの樹のかげ 四 高楼/ゆふぐれしづかに/月夜/強敵/別離/望郷/かもめ/流星/君と遊ばむ/昼の夢/四つの袖//林の歌

■『一葉舟』より
鷲の歌/白磁花瓶賦/銀河/きりぎりす/春やいづこに

■『夏草』より
小兎のうた/晩春の別離/うぐひす/かりがね/野路の梅/門田にいでて/宝はあはれ砕けけり/新潮

■『落梅集』より
常盤樹/寂寥/千曲川旅情の歌 一 二/鼠をあはれむ/労働雑詠 一 朝 二 昼 三 暮/炉辺雑興/黄昏/枝うちかはす梅と梅/めぐり逢ふ君やいくたび/あゝさなり君のごとくに//思より思をたどり/吾恋は河辺に生ひて/吾胸の底のこゝには/君こそは遠音に響く/こゝろをつなぐしろかねの/罪なれば物のあはれを/風よ静かにかの岸へ/椰子の実/浦島/舟路/鳥なき里/藪入/悪夢/響きりん音りん/翼なければ/罪人と名にも呼ばれむ/胡蝶の夢/落葉松の樹/ふと目はさめぬ/縫ひかへせ

解説(吉田精一)
初版本目次および校異(阿毛久芳)

書評情報

Grazia 2002年9月号
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