川釣り

川釣り
著者 井伏 鱒二
通し番号 緑77-2
ジャンル 書籍 > 岩波文庫 > 緑(現代日本文学)
日本十進分類 > 文学
刊行日 1990/09/17
ISBN 9784003107720
Cコード 0195
体裁 文庫 ・ 212頁
定価 660円
在庫 在庫あり
人も知る釣りの名手井伏鱒二氏は,たんに技術にすぐれ獲物の量を誇るだけの名手ではない.釣竿を手に,伊豆の山,甲州の川へと分け入る氏が,自分の釣り場を思い出しながら書いた随筆や短篇小説を集めたこの一冊は,釣りの世界を語りつつ,人生の諸相をあたたかいユーモアにつつんで巧みに描きだす. (解説 飯田龍太)


■「まえがき」より
 私は釣りが好きだが釣りの技術に拙劣である.したがって,この本に集めた文章にも,釣技に関することは何もいっていない. たいていは釣りに行きたくっても行けないようなとき,自分の釣場を思い出しながら書いた文章である. 私の尊敬する友人で海釣りの達人は,「十年釣りをして三行かけ.」といった.もしこの金言を遵奉すれば私は十数年前から釣りを始めたので数行詩かかけないことになる.わずか数行の文章で釣りに関することを書くとすれば,まず釣りの心得でも書くよりほかはないだろう.しかし私は金言を発表できるほどの釣師ではない.私の釣りの師匠である佐藤垢石は「山川草木に溶けこめ.」といった.河津川の川端さんという郎釣り師は「お前さん,川に喰らいつかなくちゃ.」と教えてくれた.笛吹川の矢崎さんという練達者は.「もっと真面目に釣らなくっちゃいけねえよ.」といった.下部川のヤマメ床という練達者は「そんな,せかせかすることじゃ駄目.」といったいずれも私の心境の至らなさを懲らしめた言葉である.私は山川草木に分け入る精神に縁遠い.昔の或る俳人には「旅の心得」という偽書があるが,旅の心得も釣りの心得に通ずるものがあるだろう.やはりその偽書にも「山川旧跡,したしく尋ね入るべし.……航銭茶代,忘るべからず」 といってある.(以下略)
まえがき

渓流
釣魚紀
釣魚余談
釣魚雑記
ワサビ盗人
雨河内川
手習草子
不漁雑記/二月二十日記/樟脳の粉/恐るべき風月老人/冬の釣り/鮭/鮠釣り/疎開者不漁/私の膝小僧/湯河原沖/河川状況
白毛
掛け持ち
片棒かつぎ
グダリ沼
奥義讃(飯田龍太)

書評情報

Number 2013年11月号
東京新聞(朝刊) 2013年5月26日
日本経済新聞(朝刊) 2010年7月11日
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