有事法制と憲法

なぜ日本に有事法制がなかったのか? それは憲法に明確に違反するからである.文学者と憲法学者による有事法制徹底批判.

有事法制と憲法
著者 小森 陽一 , 辻村 みよ子
通し番号 584
ジャンル 書籍 > 岩波ブックレット
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2002/12/20
ISBN 9784000092845
Cコード 0336
体裁 A5 ・ 並製 ・ 56頁
在庫 品切れ
周辺事態法や盗聴法,国旗国歌法などが軒並み通った1999年に引き続き,2002年は有事三法案,個人情報保護法案など,軍事化と国民の管理統制を強めようとする法案が上程された.「備えあれば憂いなし」「万万が一のための」法律が,なぜこれほど急がれるのか.それらは,1人1人の暮しに何をもたらすのか.そして人権を保障する憲法にとって,破局的な意味を持つことになるのでないか.「憲法再生フォーラム」第2回講演会記録から.

■編集部からのメッセージ

 2002年の通常国会で最大の焦点になったのが,「武力攻撃事態法案」ほかの3法案,いわゆる有事法制案でした.
 「備えあれば憂いなし」「これまでなかったのがおかしい」――これが法案を提出した小泉首相の提案の理由でした.もちろん,これらの言葉は,キャッチ・フレーズ以上のものではありません.いま,実際に日本に武力攻撃が迫っていると考えている者は,当の政府を含めて,どれくらいいるでしょう.むしろ,米軍が東アジアで(特に朝鮮半島で)軍事行動を起こす場合,日本がサポートするために必要な法整備ではないか,と疑われています.つまり攻撃されるのではなく,攻撃するための法案ではないか,というのです.
 それにしても,冷戦時代の80年代に検討された,あまりに時代にそぐわない,不備な法案であったために,通常国会では継続審議となり,秋の臨時国会でもほとんど議論されずに,年を越すことになりました.
 しかし,これで有事法制案が消えたわけではありません.イラク後の状況次第ですが,朝鮮半島の危機が高まれば,米軍が軍事行動を起こす可能性は否定できません.それを見越して,次期通常国会で,修正を加えたこれらの法案が再び議論される可能性はむしろ高くなっています.
 小森陽一・東京大学教授は,日本近代文学専攻の立場から,いかにこの法案に書かれた言葉が不誠実で,曖昧なものであり,その曖昧さの中にいかに危険な要素が盛り込まれているか,を明らかにします.
 辻村みよ子・東北大学教授は,憲法学専攻の立場から,戦争を前提としたこれらの法案が,それ自体として憲法に違反するものであること,そしてそれゆえにこそ,戦後の保守政権もこれまでに立法できなかったことを明確にした上で,こうした法律ができれば,憲法に基づいて政治を行っていくという「立憲主義」「憲法政治」そのものが危機に瀕することになる,と語ります.
 有事法制の本質をわかりやすく知るための,最適の1冊です.

* このブックレットは,憲法再生フォーラム(代表=加藤周一・杉原泰雄・高橋哲哉)が主催した講演会での記録に加筆したものです.
【編集部 岡本厚史】
いま,なぜ有事法制案,メディア規制法案なのか 小森陽一
憲法政治に「憂い」あり――市民主権の視点から 辻村みよ子
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