習熟度別指導の何が問題か

今や公立小学校の7割以上,中学校の6割以上で導入されている指導法.「個に応じた教育」を実現できるのか.

習熟度別指導の何が問題か
著者 佐藤 学
通し番号 612
ジャンル 書籍 > 岩波ブックレット
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2004/01/07
ISBN 9784000093125
Cコード 0336
体裁 A5 ・ 並製 ・ 72頁
在庫 品切れ
特定科目でクラスを別編制して学習する―能力差別につながるとして長らく教育の世界でタブー視されてきた指導法が,今や公立小学校の7割以上,中学校の6割以上で導入され,急速に普及した.「学力低下」を食い止める方策となりうるのか.そして子どもの学びを真に支え,伸ばすことはできるのか.海外での事例をもとに検証する.

■著者からのメッセージ

 「習熟度別指導」(能力別編成)が,急速に全国の学校に普及しています.2003年度の文部科学省の調査によれば,小学校の7割,中学校の6割以上の学校が,算数(数学),英語などの教科で「習熟度別」のクラス編成を実施しています.
 これまで日本の小学校,中学校の教育は,平等で平均的な学力水準が高いことで知られ,海外から高い評価を獲得してきました.この小学校,中学校における平等の原則と平均的学力の高さは,教育における民主主義の基礎要件であり,諸外国と比較して日本の教育の最も高く評価される部分であったのです.その根本的な土台が,今「習熟度別指導」によって瓦解しつつあります.
 これほど大規模の変動が起きているにもかかわらず,「習熟度別指導」に関して本格的に検討した書物や批判的に検討した書物は一冊も出版されていません.
 いったい,なぜ,これほど急速に「習熟度別指導」が全国の小学校,中学校に普及したのか.「習熟度別指導」が導入された学校では,どのような指導が行われ,どのような能力差別が行われているのか.「習熟度別指導」という露骨な差別と選別の教育に対して,校長や教師はなぜ抵抗しないのか.このブックレットでは,学校と教室の現実に即して,この事態の重要性と緊急性をアピールしています.
 そして,この本書では,海外の事例とその調査研究の結果を紹介しつつ,「習熟度(能力)別指導」が,一部の少数のエリート教育のプログラムでしか効果をあげていないことを調査結果にもとづいて明示しています.さらに,なぜ「習熟度(能力)別指導」は,学力向上にマイナス効果しか発揮しないのか,そしてなぜ学力格差の拡大に帰結してしまうのかを,さまざまな調査研究や学力調査の結果を分析しつつ理論的に解明しています.
 学力の向上を願うならば,ただちに「習熟度別指導」を廃棄し,多様な能力と個性を備えた子どもたちが共に学び合う「協同的学び」の実践へと移行すべきです.この小冊子が,能力による差別と選別で子どもの未来を破壊しつくす事態の進行を阻み,民主的で平等でしかも学力向上にとって効果的な学びを創造する手引きとなることを願ってやみません.
一 急速に広がる「習熟度別指導」
二 「習熟度別指導」は時代遅れ!
三 「習熟度別指導」は有効か
四 授業の改革による協同的な学びへ
佐藤 学(さとう・まなぶ)
1951年広島県生まれ.東京大学大学院教育学研究科博士課程修了.東京大学大学院教育学研究科教授.教育方法学.子どもの学びを中心に据え,内外の実践から得た知見と理論をバックに授業改革・学校改革に参画.研究者としてアメリカ・ヨーロッパでも高い評価を受ける.ナショナル教育アカデミー会員.
『米国カリキュラム改造史研究』(東京大学出版会),『教育方法学』『授業研究入門』『教育改革をデザインする』『「学び」から逃走する子どもたち』『学力を問い直す』(以上岩波書店,『授業研究入門』は共著),『教師というアポリア』『学びの快楽』(以上世織書房),『身体のダイアローグ』(太郎次郎社,対談集)『教師たちの挑戦』(小学館)など.
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