全国学力テスト

その功罪を問う

今後の教育がめざすべき方向は? 半世紀前の全国学力テスト,イギリスの教育との比較から考える.

全国学力テスト
著者 志水 宏吉
通し番号 747
ジャンル 書籍 > 岩波ブックレット
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2009/01/09
ISBN 9784000094474
Cコード 0336
体裁 A5 ・ 並製 ・ 72頁
在庫 品切れ
全国学力テストが,地域ごとの結果や結果の開示をめぐって,大きな話題になっている.本書は,半世紀前に行われていた全国学力テストや,日本が範とするイギリスのナショナルテストの経験を踏まえ,テストの結果わかってきたこと,今後の教育にもたらす影響,そしてテスト実施の是非に切り込む.

■著者からのメッセージ

二〇〇七年四月二四日,文部科学省によって全国学力・学習状況調査(以下では「全国テスト」と表記する)が実施された.何と四三年ぶりのことであった.全国で小学校6年生および中学校3年生がそれぞれ一〇〇万人以上参加し,それに費やされた予算は七〇億円を超えたという.
 二〇〇八年も同様の形で全国テストが実施され,八月末には結果の速報が文科省から出された.教科ごとの正答パターン,学力格差の構造など,主要な結果は去年とほぼ同一のものとなっており,これほど大規模な悉皆調査を毎年実施する必要があるのか,結果の分析方法や生かし方がこのままでよいのかといった点についての疑問点が提出されている.
 本書では,半世紀ほど前に行われていた日本の全国学力調査,およびイギリスでこの二〇年間ほど実施されている「ナショナル・テスト」などの経験をふまえたうえで,今回の全国テストの基本的な性格と見出された知見,さらにはその社会的な影響等について,教育社会学的な観点からの検討を行う.その作業を通じて,この種のテストがもつメリットとデメリットを原理的・実践的に把握し,今後のあるべき方向性についての提案を行ってみたい.
 本書の構成を述べておこう.
 まず1章では,「いつか来た道」と題して,かつて全国学力調査が実施され,廃止された歴史的経緯と当時の結果の概要を簡単に振りかえったのちに,今回の全国テストが構想され,実現されるにいたった経緯を整理する.
 続く2章では,二〇〇七年と二〇〇八年に実施された二度にわたる全国テストから明らかになったことがらについて,「学力格差」をめぐる問題を中心に,筆者なりの観点から検討を加える.さらに,今回のテストがもたらした社会的インパクトについて,大阪府のケースを事例に論じてみたい.
 3章では,目を海外に転じて,イギリスの経験についてふれる.具体的には,一九八八年教育改革法によってもたらされた教育界の新しい秩序のなかで,「ナショナル・テスト」と呼ばれる全国テストが担う意味について考察を行う.
 それらの論述をふまえたうえで,最後の4章では,全国テストがもちうるメリットとデメリットについて教育社会学的な視点からの検討を加え,今後の全国テストのあり方についての筆者なりの考えを示してみたい.
(本書「はじめに」より)
はじめに
1 いつか来た道
2 2007年,2008年全国学力テスト
3 イギリスの経験
4 全国学力テストは必要か
志水宏吉(しみず・こうきち)
1959年兵庫県生まれ.東京大学大学院教育学研究科博士課程修了(教育学博士).東京大学教育学部助教授を経て,現在,大阪大学大学院人間科学研究科教授.専攻は,学校臨床学,教育社会学.著書に『変わりゆくイギリスの学校――「平等」と「自由」をめぐる教育改革のゆくえ』(東洋館出版社),『ニューカマーと教育――学校文化とエスニシティの葛藤をめぐって』(共編著,明石書店),『学力の社会学――調査が示す学力の変化と学習の課題』(共編著,岩波書店),『公立小学校の挑戦――「力のある学校」とはなにか』(岩波ブックレット),『学力を育てる』(岩波新書),『公立学校の底力』(ちくま新書)など.

書評情報

朝日新聞(朝刊) 2009年6月7日
北海道新聞(朝刊) 2009年3月8日
ページトップへ戻る