いま,「靖国」を問う意味

A級戦犯合祀や首相の参拝だけが問題ではない.長年取材してきた著者が,改めて靖国問題の本質に迫る.

いま,「靖国」を問う意味
著者 田中 伸尚
通し番号 929
ジャンル 書籍 > 岩波ブックレット
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2015/07/07
ISBN 9784002709291
Cコード 0336
体裁 A5 ・ 並製 ・ 80頁
定価 682円
在庫 在庫あり
「私は戦争に行きたくないし,靖国神社に祀られたくない」.安倍首相の靖国参拝を問う訴訟の原告団に加わった若者は,そう陳述した.軍事化を進める安倍政権のもと,靖国神社の存在が切実に問われている.国家が戦死者を追悼する意図は何か.私たちは「戦争と死」にどう向き合うべきか.靖国に抗する人々を追い続けてきた著者が根源から問う.

■編集部からのメッセージ

 本書の編集作業をしているさなか(2015年6月),安倍政権は安保関連法案の成立をめざし,それにより自衛隊の活動範囲をなし崩しに広げようとしています.この法案について,法学者などからは,憲法違反とする声明などが出され,市民の間にも反対の声が広がっています.もし,実際に自衛隊が戦地で米軍の戦争に参加するようなことになったら――.平和憲法のもとでは本来考えられなかったはずの「戦死」の問題が,いま,切実に私たちに迫ってきているのではないでしょうか.そして,戦死者を英霊として顕彰し,祀ってきた靖国神社についても,その意味をこれまで以上に考えていく必要があるでしょう.
 本書では,ノンフィクション作家の田中伸尚さんが,さまざまな生を背負いながら「靖国」に抗し続けている人たちを追います.それを通して,「靖国」の問題性の本質に迫っていきます.平和的生存権を求めて,安倍首相の参拝(2013年12月)を問う訴訟の原告の一人となった若者,戦死した父親や兄の合祀取り下げを求める遺族たち,広島で動員され被爆死した級友たちが合祀されていることを知り,「靖国」を問い続ける女性,などが描かれます.
 「靖国」をめぐる問題は,首相の公式参拝やA級戦犯の合祀といった問題に焦点が向けられがちです.しかし,問題はそれだけではありません.より本質的には,国家による戦死者の追悼そのものを問い直すことが重要であることが,本書では述べられます.国家の政策のもとに戦死していった本人の意思,あるいは家族を失った遺族などの意思は置き去りにされ,また戦争を遂行した国家の責任も回避される.国家と戦争,国家と戦争による死者をめぐる根源的な問いかけがなされます.
戦後70年を経て,これからの「戦後」をどう築いていくか,築いていけるか.ぜひ本書を手にとって,ともに考えていけたら,と思います.
(編集部・田中宏幸)
はじめに

第1章 首相の参拝は何をもたらしているのか
1 若者が託した平和的生存権/2 遺児の集団参拝の時代経験から/3 参拝と違憲判決

第2章 「靖国」と戦争の死者たち
1 母を通した戦争と「靖国」/2 「英霊」になった級友にわが身を重ねて/3 首相の参拝と社会意識

第3章 追悼をめぐる自己決定権
1 母の悲憤の記憶から兄の追悼を考える/2 遺児僧侶,半世紀の問い/3 自己決定権という根源的な問い/4 国家の追悼観と揺らぎ/5 国家の追悼への疑問――ドイツ,沖縄,靖国
田中伸尚(たなか・のぶまさ)
1941年東京生まれ.慶應義塾大学卒.朝日新聞記者を経て,ノンフィクション作家.『ドキュメント 憲法を獲得する人びと』(岩波書店)で第8回平和・協同ジャーナリスト基金賞.明治の大逆事件から100年後の遺族らを追ったノンフィクション『大逆事件――死と生の群像』(岩波書店)で第59回日本エッセイスト・クラブ賞.
『行動する預言者 崔昌華――ある在日韓国人牧師の生涯』『未完の戦時下抵抗――屈せざる人びとの軌跡』『抵抗のモダンガール 作曲家・吉田隆子』『ドキュメント 靖国訴訟――戦死者の記憶は誰のものか』(以上,岩波書店),『ルポ良心と義務』『日の丸・君が代の戦後史』『靖国の戦後史』『憲法九条の戦後史』(以上,岩波新書),『教育現場に「心の自由」を!――「君が代」強制を問う北九州の教職員』(岩波ブックレット),『反忠――神坂哲の72万字』『さよなら,「国民」――記憶する「死者」の物語』(以上,一葉社),『合祀はいやです.』『不服従の肖像』(以上,樹花舎),『蟻食いを噛み殺したまま死んだ蟻――抵抗の思想と肖像』(佐高信との共著,七つ森書館),『ドキュメント 昭和天皇』全8巻(緑風出版)など,個人の自由と国家の関係を問う著書多数.

書評情報

ふぇみん 2015年10月25日号
クーヨン 2015年10月号

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