語学と文学の間

日本語の起源を探りつづけてきた著者が,文字の背後に隠された人間的営みを解き明かした初期研究の精華.

語学と文学の間
著者 大野 晋
通し番号 学術154
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 学術
日本十進分類 > 語学
刊行日 2006/02/16
ISBN 9784006001544
Cコード 0181
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 314頁
在庫 品切れ
奈良時代の言葉を伝える『万葉集』に用字の乱れが集中する箇所があるのはなぜか,仮名遣の原則を最初に打ち立てた藤原定家はどんな法則によりそれを決めたのか,本居宣長は『源氏物語』の恋の諸相をなぜ「もののあはれ」として捉ええたのか…….日本語の起源を探りつづけてきた著者が,文字の背後に隠された人間的営みを解き明かす.著者がタミル語に出会う以前の仕事の精華.

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……大野さんのこの書物には,特別な仕掛けがしてある.もっともこの仕掛けは大野さんの書物についていつも施されてはいるのだが,この書物にはとくにはっきりと,それがあらわれている.大野さんはもちろん,学を極めた語学者であるが,じつは名探偵の元締でもあった.
 大野さんは名探偵にして文学者――それがこの本の仕掛けである.
 別に言えば,この本に収められた七つの論文は,それぞれ文学のうちの推理小説の形式で書かれている.対象となる事件とは何か.日本語成立時の重大な謎! これがそれである.では,その方法論は何か.大野さんは完璧な帰納法を細心の注意のもとに,そして熟練の技量をもって使いこなす.こうして大野さんは,読者を日本語の出生の秘密へと誘い込み,たちまち熱狂させ,そして読み手にも事件の真相を発見させるのである.
 もっと言えば,七作とも名品であって,ひとたび読み始めたらぞくぞくするほど面白く,読み終えたとき,見慣れ聞き慣れたつもりの,そして使い慣れたつもりの日本語が,まったく新しい輝きのもとに見えてくる.これはそのような希有の書物である――と書いたところで,また別の友人の忠告が蘇ってきた.
 「誉めすぎはいけないよ.過褒はかえって相手をからかうことになる.すべてほどほどに」と.
 けれども……(以下,続く)

 以上の,井上ひさし氏の解説でお分かりのように,本書は大野晋氏が日本語成立時の謎を鮮やかに解き明かした論文を新たに編集したもの.大学の卒業論文のテーマでもあった,『万葉集』巻第十八の謎にかかわる昭和20年の論文を始め,著者がタミル語に出会う以前の古典語研究の精華がここに揃った.各論文には新たに「はしがき」を書き下ろし,古典の知識を前提としなくても十分に楽しめるよう導入とした.言葉の緻密な分析から,人間や文化が見えてくる,非常に刺激的な一冊.
大野 晋(おおの すすむ)
1919年,東京に生まれる.東京大学文学部卒業.国語学者.文学博士.現在,学習院大学名誉教授.著書に『上代仮名遣の研究』『係り結びの研究』『日本語の形成』『弥生文明と南インド』『日本語の起源』『日本語をさかのぼる』『日本語以前』『日本語練習帳』『日本語の教室』『日本語と私』『岩波古語辞典』(共編)などがある.

書評情報

東京新聞(朝刊) 2006年4月16日
北海道新聞(朝刊) 2006年3月26日
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