日本人論

明治から今日まで

日本人はなぜ自らの国民性を論じたがるのか.代表的な論著500点余を的確に紹介,解説する決定版.(解説=石川弘義)

日本人論
著者 南 博
通し番号 学術157
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 学術
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2006/04/14
ISBN 9784006001575
Cコード 0136
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 494頁
在庫 品切れ
明治以来の社会的変動の中で,日本人はいかに自らの国民性を考察してきたか.果たして日本人は変わってきたのか.極めて興味深い,代表的な論著500点余を紹介,解説しつつ,自らの国民性を論じたがる日本人の謎にも迫る労作.日本人,日本社会の歴史的現在を考察するための必携書.(解説=石川弘義)

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 今,『国家の品格』という本がベストセラーになっていることも,ある意味では日本人ほど自らの国民性を論じることを好む国民は珍しいという事情と相通じているのではないでしょうか.歴史的にみても,明治期以降だけでも万巻の書が,日本人の特質について考察し,その折々には広く関心を集めました.とはいえ,ある時間が経過してしまうと,一時のブームは忘却され,また次なる日本人論に飛びつくという「習慣」が形成されてきたように思えます.本書の著者も,過去の日本人論を冷静に検証する気風が欠如してきたことに憂いを感じ,明治維新以降今日までの日本人論の流れを客観的にたどる試みが重要であるという立場から本書の執筆を試みました.
 著者は数十年にわたり,日本人の生活・文化・心理についてさまざまな角度から考察し,「日本人学」を構築しようとしてきた研究者であり,その社会心理学での業績も含めて,マスコミでも長年強い影響力を持ってきました.
 その成果は,『日本人の心理』『日本的自我』等に示されています.本書は,この研究の過程で巡り会った千数百点にのぼる国民性に関する論著の中から,著者が代表的だと考えるものを選び,明治期80強,大正期約30,昭和戦前期約100,占領期30強,現代(一)約70,現代(二)約130点について歴史的に位置づけ,簡潔な紹介が付されています.
 明治以来の社会変動の中で,日本人論は日本人の外国に対する自国意識の高まりによって顕著に現れてきたこと.明治期の前半には日本人劣等説,後半には優秀説が対照的に現れたこと.大正期にはより客観的に日本人をとらえる国際主義が登場し,昭和戦前期には風土や文化との関わりで緻密に日本人が論じられ,日中戦争以降は日本精神論を中心とするファシズム日本人論が盛んになった.そして占領期には,敗戦前から180度転回した日本人の反省と新しい国民性への展望が試みられるようになるというのが歴史的概観でありますが,このような大づかみな概観以上に各章で展開されている具体的な論著についての考察は興味深いものがあります.それぞれの時代と切り結ぶ中で,いかなる日本人論が登場してきたかを知ることは,広範な読者にとって格好な書物であるといえるでしょう.論じられている主題は,風土論,自然観,宗教意識,美意識など多岐にわたっています.
 『甘えの構造』も『菊と刀』も『日本人とユダヤ人』も近現代日本の流れの中で,その意義が浮き彫りにされています.500点余の論著が描き出した「自画像」についてどのような感想を持っていただけるでしょうか.ご一読をお薦めいたします
南 博(みなみ ひろし)
1914~2001年.1940年京都大学卒業.43年コーネル大学大学院卒業.専攻=社会心理学.一橋大学教授退官後は,同大学名誉教授.日本心理センター所長,伝統芸術の会会長,全日本気功協会会長を務めた.主著『日本人の心理』『日本人の心理と生活』『日本人の芸術と文化』『日本人論の系譜』『日本的自我』『家族内性愛』『体系社会心理学』『行動理論史』『人間行動学』など多数.

書評情報

京都新聞(朝刊) 2006年5月21日
宮崎日日新聞 2006年5月14日
東京新聞(朝刊) 2006年5月7日
読売新聞(朝刊) 2006年4月23日
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