治安維持法小史

この法が稀代の悪法とみなされたのはなぜか.運用の実態と20年間におけるその変容を克明に描く基本書.

治安維持法小史
著者 奥平 康弘
通し番号 学術161
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 学術
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2006/06/16
ISBN 9784006001612
Cコード 0132
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 360頁
定価 1,496円
在庫 在庫あり
1925年制定の同法が,いかなる意味で稀代の悪法であったかは,決して自明ではない.本書は戦前日本の特異な治安立法がいかに運用され,敗戦後までの20年間にどう変容していったかを克明に描きだす.法の拡張解釈や恣意的な運用,鍵としての「国体」概念などを分析し,戦前社会の実像を読む最良の基本書.


■内容紹介
 治安維持法,1925(大正14)年に制定され,1945(昭和20)年に廃止されたこの法律がいかなるものであったかを記憶として語りうる人は少なくなっています.
第一条「国体ヲ変革シ又ハ私有財産制度ヲ否認スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シ又ハ情ヲ知リテ之ニ加入シタル者ハ十年以下ノ懲役又ハ禁固二処ス(略)」

という同法の中心をなす条文は,約三年後の1928年に緊急勅令によって「改正」され,「国体」変革を目的とする行為に限って,「死刑又ハ無期」という罰則の強化もなされました.それから敗戦後にいたるまで,この法律はそもそもの取り締まり対象とされた共産党組織,共産主義者のみなら共産党の「外郭団体」,シンパサイザーはもちろんのこと,社会主義者,宗教活動家,知識人,学生等々をも取締りの対象としました.のみならず読書会やサークル活動までが官憲の弾圧を受けることを余儀なくされたのです.

 本書はこの特異な治安立法の全体像を解明することを企図して執筆されました.本書の刊行以前にも,同法の下でどれほど過酷な弾圧がなされたのかを明らかにする多くの書物が刊行されていましたし,何人もの研究者が同法の研究を手がけていました.それらの仕事をも踏まえた上で本書の意義がどこに存在しているのかを述べるならば,治安維持法とは何であったのか,それはいかなる意味で悪法であったのか,制定から廃止に至る二十年間の中で,同法がどのように「改正」を重ねていかに変容していったのかを総体として描き出そうとしている点にあります.そのことによって,単なる条文の解釈ではなく,同法が戦前期日本の社会をいかに規定していたのか,同法によって市民の言論・表現の自由がどのように侵害されたかがいきいきと描き出されているのです.

 現在の国会で審議されてきた「共謀罪」について,それは行為を裁くのではなく行為の実行以前の協議や相談自体を犯罪にしようというのだから,治安維持法の再来だという批判も強く寄せられました.もちろん「共謀罪」と治安維持法とは全く同質なものではありませんが,新しい質の監視国家が作られようとしている中で,戦前における代表的な治安立法であった治安維持法の実像を知るということは,時宜にかなっているのではないかと思います.そして,そもそも同法を知らずして昭和史を理解することもできません.この機会にぜひご一読をお勧めします.
※本書は1977年筑摩書房より刊行された本です。
はしがき


第一章 治安維持法の準備過程――過激社会運動取締法案をめぐって
第二章 治安維持法の制定
第三章 治安維持法の発動
第四章 治安維持法の本格的な運用――三・一五,四・一六
第五章 1930年代前半における展開
第六章 戦争へのみちと治安維持法
第七章 太平洋戦争下の治安維持法

エピローグ 治安維持法の廃止
現代文庫版あとがき
奥平康弘(おくだいら やすひろ)
1929年,函館に生まれる.東京大学法学部卒業.東大社会科学研究所教授,国際基督教大学教授等を経て,現在東大名誉教授.「九条の会」呼びかけ人.憲法学者として表現の自由に関わる問題に積極的に発言してきた.
主著は『憲法III』(有斐閣)『表現の自由』 I ・II・III『なぜ「表現の自由」か』(東大出版会)『「萬世一系」の研究』『「表現の自由」を求めて』『知る権利』『憲法裁判の可能性』『いかそう日本国憲法』(岩波書店)他多数.

書評情報

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