近代日本の国家構想

1871-1936

廃藩置県から二・二六事件までを多様な政治体制構想の相剋の過程として描き出す出色の近代政治史論.

近代日本の国家構想
著者 坂野 潤治
通し番号 学術228
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 学術
日本十進分類 > 歴史/地理
刊行日 2009/08/18
ISBN 9784006002282
Cコード 0121
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 320頁
定価 1,364円
在庫 在庫あり
近代日本の政治家や思想家は,どんな国家像を描き,それをいかに実現しようとしたのか.現代の政治状況を見据えつつ,廃藩置県から戦時体制成立までの政治史を,多様な政治体制構想の相剋の過程として考察する.各政治勢力やイデオローグが時に対立し,時に妥協した生々しい政治過程として近代政治史を描く出色の論集.

編集部からのメッセージ

8月30日に予定された総選挙で,日本政治は新たな時代を迎えようとしています.このような時こそ,長い射程力を持った日本政治史についての良書を繙きたいものです.本書の原本は1996年10月,岩波書店より刊行されました.戦前期日本を考察した書物は,数多く存在していますが,本書の特長はどのような点にあるでしょうか.
本書は1871年の廃藩置県以後,1936年二・二六事件までの約65年間の政治史を政治家や思想家がめざした政治体制構想の相剋の過程として描こうとしています.
著者の立場は,以下のような文章に表明されているといえるでしょう.「現実の政治史は,政策対立を軸に分析されるほどに予定調和的なものでもなければ,運動を軸に描かれるほどにドラマチックなものでもない.各政治勢力やそのイデオローグたちは,相当に長期間にわたって自己独自の政治のイメージを保ち続ける一方で,日々の政治的事件に対しては,相当柔軟に対応したのである.本書は,予定調和と劇的転換の中間で試みられていた中・長期的な対立と短期的な妥協の過程を,各勢力やその理論家たちの政治体制構想の対立と妥協の過程として描こうとするものである」.
「政治体制構想」の対立を描く上で,著者が重視しているのは立憲制,民主制をめぐる保守,中道,革新の三極対立を描くということです.そして二元論的政治対立の分析で無視されてきた中道派を重視しています.中道派を軸に描いた政治史だといえます.
第一章は1871年の廃藩置県から81年の「明治14年の政変」に至る十年間を近代日本の「立国過程」と位置づけ,その特徴を明らかにしています.第二章はイギリス・モデルを中心にして,三人の立憲政体構想を考察しています.とりわけ徳富蘇峰についての分析は,著者のかつての見解を修正したものとして注目されます.第三章は,1889年2月に発布された大日本帝国憲法の解釈をめぐる論争を通じて,その下で構想された相異なる政治体制の内容を検討しようとするものです.憲法解釈は個々の政治家や思想家の政治理念の反映であると同時に彼らの理念に対する制度的拘束の反映でもありました.この理念と拘束の組み合わせの中から,立憲政治の特徴が形成されていったのです.第四章は1924年6月の護憲三派内閣の成立から,1936年二・二六事件による岡田内閣の崩壊までの政治史を政治体制構想の対立を中心に分析します.本章では憲政会=民政党と政友会との違いを強調しています.政友会内閣は,皇室中心主義と社会政策無視ゆえに,民政党とは本質的に異なった保守政党として描かれます.一方,憲政会=民政党は合法無産政党からの期待に着目してその特徴を描き,20世紀初頭のイギリスの新自由主義に近い政治体制を志向した政治勢力として描かれています.
本書は長年の研究の蓄積の上に,斬新な近現代史像を打ち出した論文集です.実に平明な叙述で分量も手頃ですので,読者の皆様にぜひお勧めしたいと思います.
(2009年8月)
第一章 強兵・富国・民主化
  はじめに
 第一節 維新目的の再定義と新攘夷論の挫折
 第二節 「開発」対「民主化」
    一 工業化か民主化か
    二 工業化派の挫折と民主化派の隆盛
  おわりに

第二章 三つの立憲政体構想
  はじめに
 第一節 明治初期の井上馨
 第二節 福沢諭吉の二大政党論
 第三節 徳富蘇峰の議院内閣制論
    一 大同団結運動期の議院内閣制論
    二 議会開設後の議院内閣制論

第三章 明治憲法体制の三つの解釈
 第一節 大権政治
 第二節 内閣政治
 第三節 民本政治

第四章 政党政治の成立と崩壊
 第一節 民本主義の時代
    一 改進党の復権と民本主義の体制化
    二 民本主義の体制化
    三 不況の深化と政治体制論の後退
 第二節 挙国一致内閣期の体制構想
    一 三つの内閣構想
    二 危機の鎮静化とファッショ批判の擡頭
    三 協力内閣(政民連携)構想
    四 「円卓巨頭会議」(立憲独裁)構想
    五 憲政常道論と国体明徴

 岩波現代文庫版あとがき
坂野潤治(ばんの じゅんじ)
1937年生まれ.63年,東京大学文学部国史学科卒業.東京大学教授などを経て,現在は東京大学名誉教授.専攻=日本近代政治史.著書に『明治デモクラシー』(岩波新書)『近代日本政治史』(岩波書店)『明治憲法体制の確立』『日本憲政史』(東京大学出版会)『明治・思想の実像』(創文社)『大正政変』(ミネルヴァ書房)『昭和史の決定的瞬間』(ちくま新書)他がある.

書評情報

朝日新聞(夕刊) 2011年9月27日

受賞情報

第15回吉野作造賞(1997年度)
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