竹内好

ある方法の伝記

くらしの中で魯迅を読むことを通して自分の問題をみつけ,自分で解こうと努力しつづけた竹内の知的評伝.(解説=孫歌)

竹内好
著者 鶴見 俊輔
通し番号 学術241
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 学術
日本十進分類 > 哲学/心理学/宗教
刊行日 2010/09/16
ISBN 9784006002411
Cコード 0110
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 294頁
在庫 品切れ
竹内好(1910-77)の著作はなぜ今なお新鮮で,読む者を魅了するのか.自分のくらしの中で魯迅を読むことをとおして自分の問題をみつけ,自分で解こうと努力することを生涯にわたってつづけた竹内に対し,深い尊敬と共感をもって書きあげた渾身の知的評伝.補論として「戦中思想再考――竹内好を手がかりとして」を併録.(解説=孫歌)

■編集部からのメッセージ

本書は〈シリーズ民間日本学者〉の1冊として1995年にリブロポートから刊行されました.絶版のため入手できないため,はじめて文庫化しました.
 竹内好は1910年10月2日に長野県臼田町に生まれ,1977年3月3日に死去.本書は竹内から多大な影響を受けた著者が,竹内のテクストを数多く引用しコメントしつつその生涯を辿る思想的伝記です.私的な交流にはあえて触れず,あたかも「私とのつきあいのなかった人のように,その著作をとおして彼の肖像をつくった」(あとがき).
 竹内には『予見と錯誤』(1970年)という評論集があります.このタイトルは自ら,自分の予測は大東亜戦争についても中国革命以後についても誤ったことを認めている.ではそのようなテクストが今なお「文章の力」を持ち,多くの人に読み返され続けるのはなぜなのでしょうか.どこに魅力があるのでしょうか.著者は本書で自分が竹内をどう読んだかを示すことで,この問いに答えようとします.竹内好の思想に関心のある人に是非お勧めしたい一冊です.
竹内好の文章の魅力は,自分を消して状況を見るという見方をとらず,自分のいる状況から離れずに文章を書いたことにある.自分をその外に置かない視野の形成.「一木一草に天皇制がある」(「権力と芸術」,講座『現代芸術』第二巻,所収).天皇制に捉えられた状況の中にいて天皇制にあらがう,そこに竹内好の文章の力がある.それは失敗の中から力を汲み取る方法を示し,自分の,そして日本国民の,さらには人類の生き続ける道を指さす.
――本書「16 大東亜戦争記念の碑」より
鶴見 俊輔(つるみ しゅんすけ)
1922年,東京生まれ.42年ハーバード大学哲学科卒業.46年『思想の科学』創刊を主導し,以来アカデミズムの枠にとらわれず,大衆文化への独自の目配りをもって日本人の思考様式の非合理性を批判し続ける.『鶴見俊輔集』(全17巻,筑摩書房),『鶴見俊輔座談』(全10巻,晶文社).岩波現代文庫では,『戦時期日本の精神史 1931~1945年』 『戦後日本の大衆文化史 1945~1980年』 『教育再定義への試み』,『戦後日本の思想』(久野収・鶴見俊輔・藤田省三),『思想の折り返し点で』(久野収・鶴見俊輔),岩波新書の近著に『思い出袋』がある.

書評情報

サンデー毎日 2010年12月19日号
信濃毎日新聞(朝刊) 2010年11月7日
ページトップへ戻る