生成文法の企て

20年の歳月を隔てて,知の巨人が自らの科学観と言語観を語りつくした二つのインタヴューを収録.

生成文法の企て
著者 ノーム・チョムスキー , 福井 直樹 , 辻子 美保子
通し番号 学術253
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 学術
日本十進分類 > 語学
刊行日 2011/08/18
ISBN 9784006002534
Cコード 0180
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 462頁
在庫 品切れ
知の巨人チョムスキーが自らの科学観と言語観を率直かつ詳細に語った.原理・パラメータモデルが誕生しつつある興奮のなか1980年の前後にかけて行なわれたインタヴューと,極小主義の本格化を経て2002年秋に行なわれたインタヴューを収録.訳者による序説では,生成文法理論における問題設定と中心的主張が解説される.

■編集部からのメッセージ

2003年の単行本刊行後すぐに,知の巨人チョムスキーの言語・科学論の決定版として,言語学界を超えて広く話題になった本書が,岩波現代文庫になりました.新たに訳者の福井直樹・辻子美保子両氏による解説「「生成文法の企て」の現在」が加わり,そこでは,言語脳科学や言語進化に関する最近の状況,言語と数学との関係,人間言語にみられる併合(Merge)演算と内心構造の問題などが論じられています.また,本文における訳語の見直しも相当程度行なっています.初めて読まれる方はもちろん,単行本版を読まれた方も,ぜひこの岩波現代文庫版をご覧ください.

■「訳者による序説」より

本書収録の「生成文法の企て」は,正にこの原理・パラメータモデルが誕生しようとしているその時に,ほぼリアルタイムで行なわれたインタヴューである.一つの科学分野においてはそう何度も起こらないような理論転換を目の当たりにして,いささか興奮気味に言語理論のあらゆる側面に関して極めて率直に(かつ詳細に)意見を述べるチョムスキーの語り口は,迫力十分である.
 原理・パラメータモデルの誕生は,何にもまして広範な領域における経験的研究の爆発的増大をもたらした.それまであまり深く研究されることがなかった諸言語を含む,あらゆるタイプの言語が研究の対象とされ,言語理論と密接に結びついた形での記述的研究が蓄積されていったし,また,心理学,脳科学,計算機科学,等を中心として,言語と密接に関係している諸分野との相互交流も活発化した.
 このような劇的とも言える理論的・経験的な研究の展開を主導する一方で,チョムスキー自身は(「生成文法の企て」でも少し触れられているが),かねてから目指していた目標を追求していた.すなわち,普遍文法の単純化・簡素化を行ない,同時に,普遍文法で設定されている諸原理を,さらに一般的な原理から導き出そうとする試みである.この動きは,一九八〇年代後半から言語における「経済性原理」の探究として顕在化し,さらに,言語機能と他の認知システムとの相互作用に着目する考えと相俟って,一九九〇年代初頭における極小主義の提案へと繋がっていく.…(中略)…
 本書に収録されている二つ目のインタヴュー「二十一世紀の言語学」は,原理・パラメータモデルが提示されてから二十年ほど経ち,極小主義が本格的な展開を見せ始めてからも十年前後経過した二〇〇二年秋に行なわれた.生成文法理論における主要な概念的争点(極小主義の本質,等),近代科学においてのガリレオ・ニュートン流思考法の役割,生成文法と他の諸科学との関係,等々,前インタヴューと同様に,論じられているテーマは非常に多岐にわたるが,ここでのチョムスキーの語り口は,前インタヴュー時とは異なり,自らが切り拓いてきた生成文法の歴史を比較的淡々と振り返り,この分野の将来についてもある程度突き放して(と言って悪ければ「客観的」に)論じる,といったところがあるように思う.
 両インタヴューにおけるチョムスキーのこういった態度の違いが一体どこから生じているのかは,この二つのインタヴューの間に経過した二十年という時の流れを考えれば,ある意味明らかであるが,そのことから分野の現状及び将来について何を想うかは,我々自身の問題である.本書収録の二つのインタヴューにおいて,チョムスキーは,科学者としての自らの側面に関してはほぼ語り尽くしていると言ってよく,そうすることによって,人間を対象にした科学に携わる者にとっては滅多に得られないインスピレーションを与えてくれている.そこから何を学ぶかの選択は,もちろん,個々の読者に委ねられている.
ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky)
1928年,アメリカ合衆国ペンシルヴェニア州フィラデルフィアに生まれる.学部生時代をペンシルヴェニア大学で送り,1951~55年は同大学大学院に籍を置きつつ,ハーヴァード大学のジュニアフェローを務める.1955年,ペンシルヴェニア大学より言語学の博士号(Ph.D.)を受ける.1955年よりマサチューセッツ工科大学(MIT)に勤務し,現在は同大学を代表するインスティテュート・プロフェッサー,名誉教授.
生成文法理論の創始者かつ主導者として今なお理論言語学・認知科学の分野に多大な影響を与えつづける一方,1960年代から一貫してアメリカ外交政策に対する厳しい批判を行なってきた政治活動家としての顔ももつ.福井直樹(ふくい・なおき)
1986年,MITにてPh.D.(言語学)を取得.カリフォルニア大学アーヴァイン校言語学科教授を経て,現在,上智大学外国語学部教授.専門は認知科学,理論言語学.
辻子美保子(ずし・みほこ)
1995年,マッギール大学にてPh.D.(言語学)を取得.愛知県立大学外国語学部助教授を経て,現在,神奈川大学外国語学部教授.専門は理論言語学(生成文法理論),比較統語論.

書評情報

しんぶん赤旗 2011年9月25日
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