明治維新を考える

明治維新の激変を理解する枠組を提示し,ジャンセン,遠山茂樹,司馬遼太郎の維新論の特徴を考察する.

明治維新を考える
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著者 三谷 博
通し番号 学術274
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 学術
日本十進分類 > 歴史/地理
刊行日 2012/11/16
ISBN 9784006002749
Cコード 0121
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 316頁
定価 本体1,240円+税
在庫 在庫僅少
明治維新はなぜ起きたのか.維新をめぐる三つの謎――武士の社会的自殺,大きな原因の不在,復古による開化という矛盾――を探究し,歴史の中の激変を理解する枠組を提示する.また,近代化論のジャンセン,マルクス主義歴史学の遠山茂樹,国民的歴史小説家の司馬遼太郎の明治維新論を検討し,「近代化」の意味を考察する.

■編集部からのメッセージ

最近「**維新の会」という政治団体が各地に生まれ大いに注目されていますが,そもそも「維新」とはどういう意味でしょうか.
 序章では最初に「維新」という言葉の意味が検証されます.「維新」がよく使われるようになったのは明治2年頃からで,幕末から頻繁に用いられてきた「一新」という言葉の中国古典による置き換えです.『詩経』大雅篇に「周は旧邦なりといえども,天命維〔こ〕れ新たなり」とあり,これは「周は殷に仕えてきた古い国家だが,新たに天命を受け,この世界全体を統〔す〕べるようになった」という意味であり,「維新」は,元来は天命の更新,中華世界での「革命」=王朝交代と同義語でした.維新の指導者たちは「日々の革新」という文脈に「維新」の語を置いていたと考えられます.明治20年代には「維新革命」という語もしばしば用いられました.
 「維新」は西洋語にはなかなか訳しにくい言葉です.「明治維新」は英語では普通 Meiji Restoration と訳されます.確かに「日本維新の会」の公式英語名称はJapan Restoration Party であるようです.しかし,Restoration は復古(王政復古)を意味することが多いので,これですと「日本復古党」と読めてしまいます.新聞報道によれば,この公式英語名称をめぐって「大日本帝国の復活か」という議論もまきおこったようです.
 著者の三谷博さんは,Restoration は王政復古の意には適切だが,維新は大規模な政体と社会の大変革だったので,むしろRevolutionに近いといいます.しかしこれだと下からの大変革になり,元来の支配身分が上から引き起こし君主制の再強化を軸にした維新を表すには不適当だとし,Regeneration(革新,復興)が最も適当であるといいます.
 第I部第1章では明治維新の背景をなすナショナリズムについて考察しています.本居宣長は,長い間日本人が文明の源泉と仰いできた中華帝国を無視しようと努力しながら,ついに忘れられませんでした.著者はこのような自己矛盾の心理を「忘れ得ぬ他者」となづけています.そして,植民地とその後継国家にとっての旧宗主国,現代の日本にとっての米国,韓国や中国にとっての日本がそれにあてはまるといいます.
 第2章では維新に関する3つの謎――(1)武士の社会的自殺,(2)大きな原因の不在,(3)復古による開化による矛盾――の概要を説明し,謎を解明するための方法論を詳論しています.特に(2)について,複雑系研究からヒントを得て,大きな変動には必ず大きな原因があるはずだという思い込みは放棄すべきであり,決定論的法則が予測不可能性をもたらす場合があると力をこめて説いています.
 第3章では明治維新を近代世界が経験した様々な革命と比較します.そうしますと,これまで自明であるとされてきた事柄がそうでなくなり,圧倒的な未解決の問題群が見えてきます.こうした問題意識にたって,本章では横井小楠と大久保利通を取り上げ,彼らの政治理念と,雄藩大名など有力者を集めた会議を設置して政治を行おうとする「公議政体論」の成立と内容について考察しています.
 第II部は明治維新論についての3つの立場,すなわち近代化論・比較研究のマリウス・ジャンセン,戦後マルクス主義歴史学の遠山茂樹,国民的歴史小説家の司馬遼太郎をとりあげ,彼らの歴史観の特徴を説明し,それぞれ評価すべき点と批判点とを論じています.ここではジャンセンの再評価が目をひきます.
 終章では「近代化」の意味について「複数の近世」論や「世界システム」論を念頭に考察して本書をしめくくります.
 著者は,1990年代半ばから韓国・中国・東南アジアなどの研究者との交流が増え,彼らに明治維新史の大きな輪郭を描いて説明する必要が生じたといい,西洋では,他の歴史家に影響を与える作品は個別の記述に止まらず,一般的な洞察を提供することが求められ,新しい観点,叙述が必要となると記しています.日本人の書いた本は個別研究では高いレベルですが,外国や他の学問分野に影響を及ぼしたものは少ないので,そうした日本の学問が持つ「天井」を破ることを目的にして,著者は本書をまとめました.
 以上のように,本書は明治維新の概説書や入門書ではなく,これまでの明治維新研究の成果と問題点を整理した上で,研究の新たな地平線を切り開こうとした,チャレンジングな,問題提起の書物です.ジャンセン,遠山,司馬といった先人の著作を念頭に,本書の骨太の議論に挑戦していただきたいと切に希望します.
(T・H)
三谷 博(みたに ひろし)
1950年広島県に生まれる.東京大学文学部卒業,同大学院人文科学研究科博士課程修了.文学博士.主な著書に『ペリー来航』(吉川弘文館),『明治維新とナショナリズム』(山川出版社),『地域史の可能性』『琉球からみた世界史』(以上共編,同前),『NHKさかのぼり日本史 5幕末』(NHK出版),『東アジアの公論形成』(編著,東京大学出版会),『国境を越える歴史認識』『大人のための近現代史 19世紀編』(以上共編,同前),『歴史教科書問題』(編著,日本図書センター),《講座明治維新》第1巻『世界史のなかの明治維新』(共編,有志舎)などがある.
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