文楽の歴史

義太夫,近松,文楽軒らの業績,松竹の経営,文楽協会の創立から現在まで,大阪の芸能・文楽の通史.

文楽の歴史
著者 倉田 喜弘
通し番号 学術295
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 学術
日本十進分類 > 芸術/生活
刊行日 2013/06/14
ISBN 9784006002954
Cコード 0174
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 310頁
在庫 品切れ
古浄瑠璃の時代から筆を起こし,竹本義太夫,近松門左衛門,植村文楽軒らの人と業績,人形遣いの技法,三味線音楽の展開を紹介する.明治に活躍した竹本摂津大掾,豊沢団平らの芸を語り,松竹の経営,文楽協会の発足,国立劇場の設立から現在まで,大阪に根ざした伝統芸能としての文楽の歴史を描く.岩波現代文庫オリジナル版

■編集部からのメッセージ

2012年春から夏にかけての橋下徹大阪市長の文楽への補助金カットをめぐる発言は、文楽関係者や愛好家だけでなく、各方面に波紋を及ぼしました。この過程で明らかになったのは、「演出を変えたらどうか」「文楽振興の戦略がない」、はたまた「人形を遣う人間の顔が邪魔」などの意見に象徴されるように、市長の文楽に対する知識の欠如、無理解、そして大阪生まれの芸能に対する愛情の欠如でした。赤川次郎さんが批判しているように伝統芸能とは奥深い山のようなもので、二、三度見ただけでいい、悪いと言い切るのは、絵はがきを見ただけで外国を論じるのと同じです(『図書』2012年10月号)。
 そこで、橋下市長が読んでも理解できる文楽の入門書『文楽の歴史』を企画しました。本書は1997~98年に刊行した岩波講座《歌舞伎・文楽》第10巻『今日の文楽』所収の倉田喜弘さんの論文「輝ける明治文楽」をもとに、その前後の歴史を加筆して、17世紀以来今日に至る人形浄瑠璃・文楽の歴史を概観する書物です。本書は大阪生まれの大阪育ちの著者による、大阪に由縁の深い伝統芸能・文楽の初めての通史です。
 第一章では17世紀以前の古浄瑠璃から筆を起こし、竹本義太夫(1651~1714)の考案した義太夫節と、彼に「曽根崎心中」などの名作を提供した近松門左衛門(1653~1724)の人と作品を論じます。
 第二章は18世紀の人形浄瑠璃の動向。義太夫の創立した竹本座とそこから分かれた豊竹座の興亡、人形遣いの技法について述べます。
 第三章は三味線の渡来から始めて、義太夫節の楽曲(フシ)の概略、三味線音楽の展開について述べます。
 第四章は18世紀半ば以降の人形浄瑠璃の変革の時代について。素人浄瑠璃が流行し、三味線が普及して多くのフシが生まれ、人形の振りにも新しい技法が見られるようになります。
 第五章は「文楽」の名の起こりとなった植村文楽軒(1813~87)を中心に論述します。また、天保改革の文楽への影響、幕末の騒擾と文楽の関係についても記します。
 第六章は幕末の動向から始め、明治文楽の中核をなす二代目竹本越路太夫(竹本摂津大掾)の活躍に焦点を合わせます。また彼の率いる文楽座に対抗した二代目豊沢団平・三代目竹本大隅太夫を中心にした彦六座、東京の浄瑠璃界の消長を見ます。
 第七章は松竹が文楽の経営権を譲渡された明治末から昭和30年代半ばまでの歴史です。松竹の経営、戦時期の文楽、技芸員の松竹派=因〔ちなみ〕会と組合派=三和〔みつわ〕会への分裂と統合までを記します。
 第八章は1963年の財団法人文楽協会の発足と66年の国立劇場の創立、文楽協会の理念、後継者の養成、海外公演などについて記します。最後に2012年春から夏にかけての橋下大阪市長の文楽への補助金カットの問題にもふれています。
 巻末に付録として「近代文楽史を創った人びと」と題し、二代目竹本越路太夫らの談話、文楽略年表、人名索引を付しています。
 本書は単に文楽の作者・作品・演者の歴史を描くのではなく、広く文楽と社会の関係、経営、観客や制作現場の実際に目を向けて、大阪に根ざした芸能としての文楽の歴史を描くものです。この数年来東京の文楽公演は満員が続き、特に近松物は人気が高く、入場券は「プラチナ・チケット」の様相を呈しています。また、東京に比べて入場者が少ないと言われた大阪の公演は橋下発言が「判官贔屓」をよび起こしたのか、以前よりかなり多くの観客が入るようになりました。こうした好況時にこそ、ぜひ本書をひもとき、文楽の来し方を振り返ってみるのはいかがでしょうか。
(T・H)
倉田喜弘(くらた よしひろ)
大阪市に生まれる。大阪市立大学経済学部卒業後日本放送協会勤務。近代芸能史研究家。著書に『日本レコード文化史』(岩波現代文庫)、『明治大正の民衆娯楽』(岩波新書)、『芝居小屋と寄席の近代』(岩波書店)、『1885年ロンドン日本人村』(朝日新聞社)、『「はやり歌」の考古学』(文春新書)、編書に『幕末明治見世物事典』(吉川弘文館)、共編書に『円朝全集』(岩波書店)、校注書に《日本近代思想大系》18『芸能』(岩波書店)などがある。

書評情報

東京新聞(夕刊) 2013年8月27日
朝日新聞(朝刊) 2013年8月11日
ページトップへ戻る