こんな美しい夜明け

テレビ「人間の條件」でのデビューから46年,撮影時の逸話や忘れえぬ出会いを流麗な筆致で紡ぎ出す.

こんな美しい夜明け
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著者 加藤 剛
通し番号 文芸131
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 文芸
日本十進分類 > 文学
刊行日 2008/03/14
ISBN 9784006021313
Cコード 0195
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 318頁
在庫 品切れ
テレビ「人間の條件」でのデビューから46年,「大岡越前」「忍ぶ川」「砂の器」「マクベス」「夜明け前」とテレビ,映画,舞台での活躍であまりにも著名な著者待望のエッセイ.撮影現場や舞台裏でのエピソード,忘れえぬ出会いと別れ,息子たちとの対話,そして時代と向き合う真摯な生き方を流麗な筆致で描く.

編集部より

加藤剛さんと言えば,テレビ「人間の條件」でデビューした俳優として,「大岡越前」「忍ぶ川」「砂の器」などをはじめとする舞台,映画,テレビでの活躍があまりにも著名です.ただ,その加藤さんが実に含蓄深いエッセイの書き手であり,軽妙洒脱な文章家でもあるということは,まだまだ多くの人には知られていないと思われます.
加藤さんの著書として『海と薔薇と猫と』『歩く人』に続いて,三冊目の著書『こんな美しい夜明け』が岩波書店から刊行されたのは2001年でした.このたび,その後に執筆された新稿も多数収録して,岩波現代文庫の一冊として刊行されました.
3月7日,NHK総合テレビ午前8時35分からの「生活ほっとモーニング」に加藤さんが出演.70歳とは思えない若々しく凛々しい姿でお茶の間に登場されました.父と同じく俳優座で役者として活躍している次男の頼三四郎さんも一緒でした(俳優・音楽家である長男の夏原遼さんも映像出演).この岩波現代文庫を手にして,加藤さんが朗読される姿を目にされた方もおられるでしょう.
本書には長短合わせて,80篇のエッセイが掲載されています.撮影時の逸話と忘れ得ぬ出会いが満載されています.「人間の條件」「大岡越前」「マクベス」「獅子の時代」「コルチャック先生」最近では「伊能忠敬―子午線の夢」「お上,理不尽」など数多くの役柄を演じてきた役者としての感懐がひしひしと伝わってきます.そして俳優座の先輩や同僚たちをはじめとする多くの演劇人との出会いもいきいきと描かれています.亡き父の回想,戦争の記憶,早稲田大学時代の演劇との出会い,演劇人として出会った60年安保闘争等,時代に真摯に向き合ってきたその姿勢も本書が醸し出す深みのある味わいだといえましょう.もちろん俳優生活46年のすべてを再現できることは不可能でも,夢に賭けてきた加藤さんの役者としての息づかいを本書からくみ取っていただけるのではないでしょうか.
2001年刊行の単行本にも多くの新稿が掲載されましたが,今回の現代文庫版刊行に際してもさらに多くの新稿が執筆されました.昨年逝去された熊井啓氏への弔辞は名作「忍ぶ川」への追想と名監督への尊敬の念を呼び起こします.またお得意の俳句や近年没頭されている陶芸についてのエピソードも心豊かなものがあります.さらに,単行本刊行当時も評判であった聡明な息子たちとの会話も,自らと同業を選んだ二人への厳しくかつ暖かい思いが描かれていて,さらに読み応えを増しています.
今回の新稿執筆が,NHKドラマ「坂の上の雲」のサンクトペテルブルグでのロケなどご多忙ななかで一気呵成に実現されたこともまことにありがたいことでした.
俳優としての加藤剛さんを応援している方も,それほど加藤さんについて知らないという方も本書を通じて,俳優という仕事のダイナミズムと繊細さを存分に感じていただけるでしょう.そして加藤剛さんの人間性が存分に表現されている文章を読む楽しみを本書でぜひ味わっていただきたいと願います.本書の冒頭から引用させていただきます(なお書名の由来については,ぜひ本書のあとがきをご参照いただきたいと思います).
夜明け前の音がだんだん聴き取れるようになった.鳥たちは声をたてずにまず羽ばたく.暗黒の中に光を感じたらもう身を挺して一直線に闇へ飛ぶのだ.一寸先は光だと信じて.彼らが歓喜の声をあげるのは,信じた光に出会えたからである.世人が楽しむ鳥たちの朝の交響曲はたぶん,オネボウな我ら聴衆への心優しいサービス・パフォーマンス.もちろん夜明けのシーンに必要不可欠なキャラクターであることは,鳥たち自身にも充分な自覚があろうから.
夜明け前は夜よりさらに暗い.この霊妙で深い静寂があるからこそ,こんな美しい夜明けがあるのだ.この夜明け前を我が人生の時間帯に有効なプログラミングできずにいた私は,魅惑的プロローグを観落としてやっと開幕に間に合いホッとしている観客みたいなものであった.本書の新稿は,すべて夜明け前に筆をとった.
ふと気が付けば未明暁天の風.その風に,私の俳優生活四十六年を素直に語り得たように思う.
(2008年3月)
◆夢と歩む
夢と歩む 幻灯の馬たち 蕎麦の花よ 決して裏切らない 大岡越前走馬灯 楽しき 俳句イング 秋草を挿して 十七節の杖が行く 空澄むや草刈る人の夏深し 木霊の峰 夢うたた

◆まわり舞台
司祭の情熱 虚も実も―マクベスの私 『おまえにも罪がある』 志乃の顔 負けた 望郷 『波・門・心―わが愛』三部作の周辺 あの食卓は あの潮騒が

◆父の背中
幻の秘園から 父の背中 プライマリーレッスン 夢のつづき 俳優元年 低い雪の丘 木下恵介先生の犬 持ちつ持たれつ 剣客商売 波 地球おもちゃ箱 立って,木を,見る どこかで,だれかが いい湯だな 大いなる「足し算」 青い風の廊下 杜に立つ イキとシャレ 雨の音の中で 一歩と一歩

◆煙が目にしみる
影を慕いて 煙が目にしみる 涙の渡り鳥 兄弟仁義 知りたくないの ああ わが戦友 星影のワルツ 人形の家 関白宣言 夜のプラットホーム 明日はお立ちか 啼くな小鳩よ 純情二重奏 誰か夢なき 奥様 お手をどうぞ 空よ 君といつまでも 骨まで愛して 十七歳 あん時ゃ どしゃ降り

◆愛しくも哀しくも
「父」の役 父のふるさと たった一人のカーテンコール 燭台と鞄 わが英太郎よ 嗚呼! ミンクさん 武内亨さんの「遺言」 秀句のごとく サラ・ベルナール てのひらの星 鳴れ,清らかな鈴たちよ 雪晴れの明日

◆時代と向き合う
『獅子の時代』 八月十五日の彫像 夜といへる黒きものこそ命なれ 木曽路より夢見る男戻りけり 富士の見える峠道 博物館へ―わが日録から 私の青空 お上,理不尽


 岩波現代文庫版あとがき―短い独白
 出演作品一覧
 初出一覧
加藤 剛(かとう ごう)
1938年,静岡県榛原郡御前崎町に生まれる.61年,早稲田大学文学部演劇学科卒業.
俳優座養成所に入り,62年,テレビ「人間の條件」の主人公・梶役で脚光を浴びた.64年,俳優座に入団.テレビ「大岡越前」「風と雲と虹と」「関ヶ原」,映画「忍ぶ川」「砂の器」「この子を残して」,舞台「波・門・心―わが愛三部作」「夜明け前」等に出演.2001年,紫綬褒章受賞.著書『海と薔薇と猫と』『歩く人』.
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