オノマトピア

擬音語大国にっぽん考

「オノマトペ=擬音語」と「ユートピア=理想郷」の合成語「オノマトピア」の世界を熱く説く抱腹絶倒の批評集.

オノマトピア
著者 桜井 順
通し番号 文芸170
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 文芸
日本十進分類 > 語学
刊行日 2010/07/16
ISBN 9784006021702
Cコード 0181
体裁 A6 ・ 270頁
在庫 品切れ
「ピッカピッカの一年生」.一年坊主の元気,幸せ,ハシャギぶりをイキイキと表現する「ピッカピッカ」というオノマトペ.「オノマトペ=擬音語」と「ユートピア=理想郷」の合成語「オノマトピア」の世界を,古事記から現代文学までを題材にした捻りの効いたエッセイと音声学や言語学に基づくガクモン的考察で説き明かす,抱腹絶倒の批評集.

■編集部からのメッセージ

桜井順さんはCM作詞・作曲家で,1960年代中頃から活動を始め,資生堂やサッポロビール,エースコックなど有名企業のCMがよく知られています.なかでも富士フィルムの「私でも写せます」(フジカ・シングル8),「お正月を写そ フジカラーで写そ」のメロディーは多くの人にとってなじみ深いものと思います.この他,野坂昭如さんのために書いた『黒の舟唄』『マリリン・モンロー・ノー・リターン』などの曲は1970年代から80年代にかけて若者を中心に圧倒的な支持を得ました.
 桜井さんはCMの作詞・作曲に携わりながら,短時間のうちに強いメッセージを届けるためにはオノマトペ(擬音語・擬態語)が重要であることを長年強く意識し,古今の文学作品や新聞,テレビで特徴的な語句や表現を集め,独自に分析してきました.そしてその成果を電通の季刊誌で発表したり,また独特の感性を発揮したショート・エッセイをまとめて『オノマトピア――擬音語大国にっぽん考』と題して,電通から1986年8月に刊行しました.
 本文庫はこれらを土台に,最近の事例にも題材をとった文章を加えた文明批評のエッセイ集です.
 「オノマトピア」とは「オノマトペ=擬音語」と「ユートピア=理想郷」を,多分に反語的意味合いをこめて合成した,桜井さんの造語です.豊かなオノマトペがなかったら,日本語の表現能力は五割ガタ落ちになる,特にCMコピーでは,と桜井さんはいいます.例えば「ピッカピッカの一年生」.一年坊主のゲンキ,シアワセ,ハシャギぶりを「ピッカピッカ」を使わずにこれだけイキイキ表現できるかと問いかけます.
 第一・二部では目次に示されたような「文学・芸能」と「社会・風俗」に関するオノマトペを取り上げ,桜井さん独自の捻りの効いた短いエッセイが続きます.ここでは自由に想像力をめぐらし,オノマトペの効果とともに「語呂合わせ」「シャレ」「言葉遊び」の効果が語られます.それはCM批評の範囲に止まらず,広く文明批評の域に達しているといっていいでしょう.
 第三部は電通発行の季刊誌に書いた連載の文章です.日本の古典から,新聞,俳句,楽器のオノマトペ(口演=くちだて)までを題材に独自の考察をし,言葉は自らのうちに肉体の記憶を持っており,オノマトペとは,視覚・聴覚・味覚・臭覚,触覚全てと体性感覚を加えた全感覚器を動員して対象を自分の体の中にとらえようとする人間の本能の働きであると主張しています.
 言葉から意味をはぎとり,言葉の肉体性を表現するオノマトペ――それは日本語を豊かにする源泉であることが本書によってよく分かることと思います.
(T・H)
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