瀬戸内少年野球団

敗戦期に,野球を通して,女教師と子供たちとのふれあいとこころの絆を描いた作詞家阿久悠の代表作.

瀬戸内少年野球団
著者 阿久 悠
通し番号 文芸224
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 文芸
日本十進分類 > 文学
刊行日 2013/07/17
ISBN 9784006022242
Cコード 0193
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 400頁
在庫 品切れ
敗戦直後の淡路島を舞台に,軍事教育から民主主義教育に一転する中,野球を通して民主主義を学ばせようとする女教師と子供たちとのふれあいと絆を描いた作詞家阿久悠の代表作.野球との新鮮な出逢い,歌を自由に歌えるよろこび,少年の友情と初恋が生き生きと描かれている.後に,映画化されて多くのファンを魅了している.(解説=篠田正浩)

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敗戦直後の淡路島を舞台に,軍事教育から民主主義教育に一転する中,惑っている子供たちに,野球を通して民主主義を学ばせようとする女教師と,スポーツ,友情,人への思いやり,恋愛に目覚めていく子供たちとの絆を描いた小説.昭和54年度下半期の直木賞候補作品.
 昭和20年9月の淡路島.江坂町国民学校の初等科5年男組の級長,足柄竜太(阿久悠がモデル),バラケツ(ヤクザ)志望の正木三郎らは担任の中井駒子先生の指示に従って,国語の教科書の不適表現箇所を墨で塗りつぶしていた.海軍大将になることが夢だった三郎,父母を亡くした竜太,仲間のデブ国,ニンジン,ボラ,ガンチャ,ダン吉,アノネも,何によって生きていってよいのか皆目見当がつかなかった.美人教師の駒子先生も,新婚早々に出征した夫正夫が戦死し,婚家の網元にとどまるかどうか迷っていた.新学期が始まって,転校生がやってきた.海軍提督だった父に同行して島にやってきた波多野武女(むめ)である.彼女の美しさに少年たちは,胸をときめかせる.
 バラケツと竜太は学校の帰りがけに立ち寄った神社で,一本足で松葉杖をついた白衣の軍人に声をかけられる.駒子先生の夫正夫だった.戦前の甲子園大会に出場した元野球青年である.駒子先生は,夫の生還により,生きる目標を失った子供たちに野球を教えようと思い立つ.物資のない中,竜太たちは見よう見まねで手作りのグローブ,ボール,バットで練習を始める.本書の中で,「野球石器時代」と呼ばれるゼロからの野球,スポーツとの新鮮な出逢いが描かれる.夫正夫をコーチにして駒子先生率いる江坂タイガースは,一段と練習に熱が入った.しかし,初戦は,隣町の大宮町小学校との対戦.一回裏の攻撃を終って,14対0で惨敗する.スポーツの素晴らしさと,負けることの悔しさ,仲間たちへの思いやりに少年たちは目覚めていく.
 チームは,武女の神戸への突然の転居により解散する.
 武女を乗せた連絡船が桟橋を離れると,見送りに来た江坂タイガースの全員が,突堤の先まで一斉に駆け出した.
 連絡船に届くように,竜太がハーモニカを吹き始め,バラケツが大声で歌い始める.

  名残りつきない果てしない
  別れ出船のドラが鳴る…

 1984年,篠田正浩監督により映画化され,夭折した女優夏目雅子が映画主演した最後の作品となった.
 文庫版「解説」は,篠田正浩監督にお願いした.
かぼちゃの花
墨ぬりまつり
コラとヘラ
ジープは走る
三本足の怪人
古いボール
悲しき竹笛
一本刀里帰り
アホな夏
バラケツ兄弟
三角ベース
野球石器時代
唐辛子の整列
梅雨とハーモニカ
上には上
健康ボール
チーム誕生
足長おじさん
晴れの門出
プレイボール
大乱戦
サマータイム
夏景色

文庫版のためのあとがき
解説(篠田正浩)
阿久悠(あく ゆう)
1937-2007年.本名,深田公之.兵庫県淡路島(現,洲本市五色町)生まれ.明治大学文学部を卒業後,広告代理店に勤務して番組企画・CF制作に関わった後,作詞家,作家として活動.作詞代表作に『また逢う日まで』『津軽海峡・冬景色』『北の宿から』など.著作に『書き下ろし歌謡曲』 『愛すべき名歌たち』(岩波書店)『瀬戸内少年野球団』『詩小説』『ラヂオ』など.97年菊池寛賞受賞,区々年紫綬褒章,2007年旭日小綬章受章.

書評情報

しんぶん赤旗 2013年7月28日
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