食卓の文化誌

食いしん坊の文化人類学者が,古今東西の食習慣の不思議を考察.食卓から世界を見る「食」の文化論.

食卓の文化誌
著者 石毛 直道
通し番号 社会100
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 社会
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2004/11/16
ISBN 9784006031008
Cコード 0139
体裁 A6 ・ 278頁
定価 1,210円
在庫 在庫あり
古代ローマではパンを焼くカマドは国家管理されていた.鍋物などの卓上料理は箸の文化圏で発達する.米を主食とする食事は胃拡張となる.…食いしん坊で料理好きの文化人類学者が,食べることに関する世界中の報告,歴史,自らの見聞をもとに,古今東西の料理法,食習慣の不思議を考察する.食卓から世界を見る食の文化論.


■内容紹介
 考古学を専攻していた石毛先生は,モノの研究から始めました.物質文化の考察から歴史と文化を再構成する仕事としては『住居空間の人類学』(1971年)という著作があります.しかし,もともと好奇心旺盛にして食いしん坊,しかも料理好きという人類学者・石毛先生が,物質文化のなかでも住居や道具のように形が残らない食べものに強く関心をもち,世界中の食文化を比較することになったのは必然ともいえるでしょう.
 食文化の研究にのめりこんだ石毛先生は,食べることが仕事なんてうらやましいとよく言われるそうですが,食べることを仕事にすると,それなりの苦労が多いようです.出された料理を食べ残すのは気がひけるので残さず食べ,調査を効率的に行うために1日に何度も食事したりするそうです.調査という目的からすれば食べなくてもいいらしいのですが,どうしても食べてみないと気がすまない.そのために,体重が増えて糖尿病にもなったそうです.これは職業病だとあきらめている.仕事や研究のために身を削るのではなく,仕事のために身を肥やす日々であるそうな…….
 本書は,食べることに関する世界中の報告,歴史,自らの見聞をもとに,古今東西の料理法,食習慣の不思議を考察しています.食器から炊事道具,調理方法,調味料などに触れながら,異文化での自らの体験を語るところはユーモアあふれる楽しいものです.
 「おろしがね」などないアフリカで手に入れた貴重な大根を大根おろしにする話.リビア砂漠で希少なタマゴと松露が手に入り,蒸し器のない場所で無理やり茶碗蒸しをつくる話.ドラム缶を鉄工場で細工してもらってくんせいガマをつくり,いろんものをくんせいにしたが,いちばん評判がよかったのはタクアンのくんせいだったとかいう話.そのほかたくさんのエピソードとともに,食をめぐってさまざまな文化が比較されます.
 そして,最後に,現代の子どもたちが平気でご飯を残すことを指摘して,それがいけないのは経済的理由によるのではなく,コメには稲魂が宿っているからなのだと説明します.日本人の食事は神との交流の場であったのです.日本だけではなく,多くの文化でも神に食べものが捧げられる.世界中には食欲旺盛な神々がいるのです.しかし,食べものをお供えとして捧げることをだんだんしなくなった.酒も祭りのとき神と一緒に飲むものだったが,独酌するようになった.日本人の日々の食卓の豊かさは昔の祭りのご馳走に匹敵する.神々は空腹のまま,われわれは神のいない祭りを毎日楽しんでいるのだろうか,と石毛先生は自問するのです.
口まで運ぶ道具
食卓
よそうもの
包丁とまな板
おろす道具
石の臼と木の臼
煮たきする道具
蒸す道具
オーブン
卓上料理
いぶす
凍らす

コショウ
砂糖

油脂
新大陸からの贈り物

カレー

だし
胃拡張
料理屋の出現
神々との交流

同時代ライブラリー版へのあとがき
石毛直道(いしげ なおみち)
1937年千葉県生まれ.京都大学文学部卒業.農学博士.民族学者.国立民族学博物館教授,館長を歴任.国立民族学博物館名誉教授.著書『住居空間の人類学』『食生活を探検する』『食事の文明論』『文化麺類学ことはじめ』,『魚醤とナレズシの研究』(共著,岩波書店)ほか.
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