現代ヨーロッパの精神

サルトル,ヴェーユら六人の思想家・作家が戦中・戦後の思想的課題といかに切り結んだかを考察した名著.(解説=海老坂武)

現代ヨーロッパの精神
著者 加藤 周一
通し番号 社会207
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 社会
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2010/09/16
ISBN 9784006032074
Cコード 0136
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 268頁
在庫 品切れ
サルトル,ベン,フォースタ,バルト,ヴェーユら六人の思想家・作家を取り上げ,彼らが戦中・戦後のヨーロッパ社会が突きつけた思想的課題といかに切り結んできたかを論ずる.戦後のヨーロッパ思想は何を提起したか.フランスでの留学生活を経て,半世紀以上前に刊行され,戦後日本のヨーロッパ思想研究を先導してきた名著.(解説=海老坂武)

■編集部からのメッセージ

1951年の終わりから55年の初めまで,パリをはじめ西欧での暮らしを経験した加藤氏は,現代西欧思想にまだ日本で知られていない多くの面があることに気がつきました.そして日本に知られていない面こそ,日本の読者にとって最も興味深い側面ではないかと考えた加藤氏は,帰国後雑誌『世界』や岩波講座『現代思想』に論文を発表し,それを1959年2月に小社から単行本として刊行したのが,本書です.1992年に同時代ライブラリーの一冊として刊行された本を底本にして,今回現代文庫として再び刊行することになりました.
 本書はサルトル,ペン,フォースタ,ヴェーユら六人の思想家・作家を取り上げ,これらの思想家・作家たちが戦中・戦後のヨーロッパ社会が突きつけた思想的課題といかに切り結んだのかを論じています.
 六人の思想家・作家は加藤氏の著書が初めて刊行された当時は,まだ日本での翻訳が少なく,本書によって初めて日本の読者に知られた人も少なくありませんでした.
 もちろん本書において,バートランド・ラッセルやヴィトゲンシュタインやポッパー以後,論理実証主義の系統をひく分析哲学者の存在がとりあげられていないことを指摘することは容易なことです.
 しかし本書で取り上げられた六人の思想家の分析を通して,共産主義,労働と人間,カトリシズム,プロテスタンティズム,ヒューマニズムについて掘り下げられた考察がなされており,当時の西欧の主な思想問題が論じられていることも間違いありません.
 半世紀以上前の50年代におけるヨーロッパ思想との対話でありますが,著者の「第一回西欧見物の決算」として並々ならぬ情熱を傾けて執筆された本書は,戦後日本におけるヨーロッパ思想研究を先導してきた名著として,今も大いなる意義を持っていると信じます.
 岩波現代文庫では,近年加藤氏の著作として『私にとっての二○世紀』 『ある晴れた日に』を刊行してきましたが,加藤氏の著作の愛読者の方にも興味深く読んでいただけることでしょう.
 現在,小社から刊行されている『加藤周一自選集』に四章から七章は収録されていますが,その他の章は本書でしかお読みいただけません.また海老坂武氏の解説では現在邦訳されている書物についての的確な紹介もありますので,本書を通じて主題をさらに深めていただくことが可能です.
 本書のご一読をぜひお奨めする次第です.
加藤周一(かとう しゅういち)
1919-2008年.評論家・作家.元都立中央図書館長.東京大学医学部卒業.1951年渡仏.55年帰国.『雑種文化』などの文明批評,文学・文化・社会に関わる長年の旺盛な執筆活動で知られる.晩年は「九条の会」呼びかけ人として平和憲法を守る運動に身を投じた.『加藤周一自選集』(全十巻) 『羊の歌』(正続) 『私にとっての二○世紀』 『日本文化における時間と空間』(以上,岩波書店)『加藤周一著作集』(全二四巻,平凡社)『日本文学史序説』(上下,筑摩書房)他,著作多数.

書評情報

東京新聞(朝刊) 2010年11月7日
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