「日本国憲法」を読み直す

日本国憲法は改正すべきか? 同年生まれで敗戦の少国民体験を共有する作家と憲法学者が熱く語り合う.

「日本国憲法」を読み直す
著者 井上 ひさし , 樋口 陽一
通し番号 社会271
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 社会
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2014/07/16
ISBN 9784006032715
Cコード 0132
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 302頁
在庫 品切れ
「日本国憲法は占領下にアメリカに押し付けられたもので,時代にそぐわないから改正すべき」「国際平和のために第九条を改正して参戦できるようにすべき」――改憲論のうねりが高まる今,憲法を読み直すことは,国家と個人の関係を問い直す絶好の機会でもある.同年生まれで敗戦の少国民体験を共有する作家・戯曲家と憲法学者が熱く語り合う.


■内容紹介
 この本は20年前に刊行された対談に,新たに樋口先生の井上追悼講演記録「ある劇作家・小説作家と共に〈憲法〉を考える」と「あとがき」を加えて復刊するものです.20年も経つのに,いま読んでも新鮮な言葉がたくさんあります.たとえば,
井上「仮に二大政党時代になったとしても,必ずしも政治がよくなるというわけではない.にもかかわらず,いまは,非自民対自民という図式の二大政党になれば日本はよくなるんだという幻想があって,それをマスコミが増幅させた.その結果として新党ブームになったような気がするんです」
 「「憲法を読み直す」ことの意味は,突きつめて言えば,ぼくたち自身が国家と個人の関係を問い直す,その格好の機会だ」

樋口「いまの日本には本当の保守政党は存在していない」「自民党は,少なくとも政綱を見ると,日本国憲法を根本から引っ繰り返そうという革命政党です」
 「これまで,国会では野党陣営が「三分の一の壁」となり,憲法の明文改正を阻止するという抑止力があった.……ところが現在は,そういう抑止力がすべてなくなってきている.労働組合がストをしない,学生運動はないに等しい,論壇は批判力をなくし,地方自治体も総与党化しています」
 特定秘密保護法や集団的自衛権などで立憲政治を掘り崩す安倍政権.井上さんがいま生きていたら,本書の対談の続きをやっていたことでしょう.加藤周一・樋口陽一『時代を読む』,高見勝利編『あたらしい憲法のはなし』とあわせてお読みになることをお勧めいたします.
プロローグ 憲法の前に剣法の話をちょっと   井上ひさし

第一章 「日本国憲法」は世界史の傑作
 憲法前文の持つ「防御装置」
 誰が,誰に「押しつけられた憲法」なのか
 「四つの八九年」は歴史からの贈物
 政治権力と司法の対立
 アウンサン将軍が残した教訓
 「天皇訪中」は“人権”の問題だ
 “ヒットラー暗殺”の心は生きている
 憲法はデモクラシーさえも制限する
 アメリカに起こりつつある「新しい変化」
 二大政党制の弊害と落とし穴
 「牛歩戦術」は議会制の伝統的テーマだ
 改めて「戦後とは何だったのか」

第二章 「憲法九条」をめぐる改憲論のまやかし
 「普通の国」という名の「普通でない国」
 「九条」の読み方を歪めた「謀略理論」
 日本人の記憶から消えた「昭和維新」
 ワイマール憲法と「トロイの木馬」
 「外圧」の正体は「内圧」だ
 「戸締まり論」のトリック
 「フィクションとしての国家」を見定める
 「二つの顔」を持つアメリカの光と影
 「脱亜入欧」と「興亜」それぞれの間違い
 人類共同体のキーワード

第三章 「国連中心主義」の行きつく先
 「軍神」東郷平八郎の二面性
 日本の「言行不一致」が生んだ怨恨
 アメリカ「意法改正二十六回」の中身
 戦後ドイツのアイデンティティ
 「国連」は清く正しいのか
 「良心的兵役拒否国」への選択
 安保理常任理事国は最大の「死の商人」
 「国際先住民年」と「固有の領土」の共通項
 「国連ルネッサンス」に待った!を

第四章 「特別の国」日本が喪失した部分
 カンボジアの「犠牲者」と戦後政治の責任
 「力による正義」でいいのか
 「日系人強制収容」を謝罪したアメリカの良心
 「過去の過ちを見るな」がもたらすもの
 国籍,参政権でも日本は「特別の国」
 「人類普遍の原理」は「守旧」なのか
 国家と個人の不幸せなマリアージュ
 破滅する自由,異端の自由,落ちこぼれる自由
 国連の「兵力行使」は戦争そのものだ

第五章 「大いなる保守化」という危険な選択
 「政治改革」の呪文と新党ブームの幻想
 社会党が放棄した「三分の一の壁」
 算九条は「自由」とセットである
 そして「真の保守派」がいなくなった
 「効率主義から公正へ」針は振れず
 スペイン「五百年目の謝罪」と竹下発言
 タテマエなし,ホンネ丸出し
 憲法愛国主義か,憲法罵倒論か
 日本は本当に「自由経済の国」なのか
 「いい憲法,悪い実態」をどう乗り越える
 「国家と個人」の関係をいま問い直す

エピローグ 「憲法」という言葉を鞣す   井上ひさし

日本国憲法は生きている
 政党はいま
 建前の拘束の衰弱
 「不戦決議」をめぐって
 歴史認識と公権力
 国家と民衆
 憲法に立ち戻るということ

ある劇作家・小説作家と共に〈憲法〉を考える   樋口陽一
――井上ひさし『吉里吉里人』から『ムサシ』まで――

岩波現代文庫版あとがき
井上ひさし(いのうえ ひさし)
1934―2010年.上智大学フランス語科卒.放送作家としてスタート,「ひょっこりひょうたん島」で知られ,その後戯曲・小説へと幅を広げる.「九条の会」呼びかけ人.『この人から受け継ぐもの』『井上ひさしコレクション(全三巻)』(岩波書店)ほか著書多数.

樋口陽一(ひぐち よういち)
1934年生まれ.東北大学,東京大学,上智大学,早稲田大学の教授を歴任.憲法学を専攻.「96条の会」代表.『いま,「憲法改正」をどう考えるか』『憲法という作為』(岩波書店)『比較のなかの日本国憲法』『自由と国家』『憲法と国家』(岩波新書)ほか著書多数.

書評情報

9条連ニュース 236号(2014年8月20日)
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