もっと知りたい!日本語

ケジメのない日本語

日本語と英語の発想法の違いは「ケジメ」にあった! 日本語だけでなく英語ももっと知りたい人に.

ケジメのない日本語
著者 影山 太郎
ジャンル 書籍 > 単行本 > 言語
シリーズ もっと知りたい!日本語
刊行日 2002/09/10
ISBN 9784000068239
Cコード 0381
体裁 B6 ・ 並製 ・ カバー ・ 168頁
在庫 品切れ
前置きの長い日本語と結論を先に言う英語,「行く/来る」と「go/come」,「ナル型」と「スル型」.こういう一見無関係に思える日英のさまざまな発想法・表現法の違いは,「ケジメ」の有無という,たった1つの違いから生まれていたのだった.日本語を知ってワンランク上の英語力もつける,まさに一挙両得の本.

■こんな話,あんな話)

◎結果重視の英語 vs. 過程重視の日本語

日本語では,
  「少年は湖でおぼれたが,無事助けられた.」
と言えるが,それを“直訳”した,
  “The boy drowned in the lake, but he was saved.”
はおかしな英語になってしまう.同様に,
  「私は彼にあきらめるよう説得したが,彼はあきらめなかった.」
はOKでも,
  “I persuaded him to give up, but he didn’t give up.”
はおかしい.英語のdrown, persuadeが「おぼれて死ぬ」「説得が功を奏する」という結果を含意するのに対して,日本語の「おぼれる」「説得する」は「泳げなくて水中で手足をバタバタさせる」「相手を説き伏せようと思って,いろいろ話して聞かせる」という過程を表現しているだけだからだ.


◎聞き手の立場で表現する英語 vs. 話し手の立場から言う日本語

人にものをあげるとき,日本語で
  「これ,差し上げます.」
は問題ないが,英語で
  “I’ll give this to you.”
と言うと,文法の間違いは全然なくても,なんだか恩着せがましい.youを主語にして,
  “You can keep this.”
としたほうが自然である.同じように,相手に何かを勧めるとき,英語では
  “You might want to take a look at this book.”
のように言うことがあるが,これを直訳した日本語,
  「あなたはこの本を見たいかもしれない.」
はとても変である.英語で,さらにもっと積極的に勧める場合には,
  “You must eat some of this cake I baked.”
のようにmustを使うことがある.こういう場合のmustは強制ではなく,「ぜひ食べてください」と強く勧める表現になる.英語でYou might want...とかYou must...といった表現を使うのは,話し手が聞き手の気持ちになって,良いことを勧めるからである.日本人なら,そこまで相手の心の中に踏み込むことは考えられないため,こういった表現は奇妙に感じる.


◎目的地を基準として表現する英語 vs. 出発点を基準として表現する日本語

夏目漱石の『坊っちゃん』がどのように英語に訳されているか見てみよう.
 (原文) 学校まではこれから四丁だ.
 (日本人による英訳) Only four cho from here to the school.
 (イギリス人による英訳) This was only about a quarter of a mile from the school.
日本人の訳者は,漱石の原文と同じく,出発点である「ここ」を基準として,「ここから四丁先」と表している.イギリス人の訳者は,逆に,目的地である学校を基準点として,「学校から4分の1マイル」と表現している.つまり,気持ちのうえでは,目的地に着いていて,そこから振り返って,今いる地点を見ているということになる.



■「はじめに」より)

 近頃,気になる日本語.
 ・「わたし的には,いいんだけど……」
 ・「彼ッテ,あなたに気があるっぽいヨ」
 ・(レストランで勘定をすませるとレジ係りが)「レシートのほう,よろしいですか(いりませんか)?」
こういう言葉を聞くと,次のように尋ねたくなる.
 どうして,「わたしは」と言わないで,「わたし的には」なんて言うの? どうして,「彼は」ではなくて「彼ッテ」になるの? どうして,「気がある」の後にわざわざ「っぽい」をつけるの? レシート以外に何があるの?
 ものをはっきりと言わない,断定を避けるというのは,古くから日本語の特徴とされてきたが,近頃はその傾向が際立ってきたように思える.その一例として,「っぽい」という語尾をインターネットで検索してみると,「趣味っぽい部屋,ゲームっぽい遺跡,わりとダメっぽい,バッハっぽい曲,心機一転っぽいような気分,悪魔の館っぽい,適当っぽい場所」などなど,なんと37万6679件も見つかった.年配のひとにとっては,ほとんどがわけのわからない言葉だろう.
………
 このような日本語の特徴は,誰でも気がつくことであり,流行語や若者ことばの専門家もしばしば取り上げている.特に,「っぽい」や「的」といった「ぼかし言葉」は,しばしば批判の的になっている.しかしこれまでの研究では,ひとつひとつの単語や語尾を問題にするだけで,日本語全体の姿を体系的に調べたものはないようである.本書では,こういった表現を,日本語の性格からするとむしろ自然なものとして受け止め,その根底にある日本語の本質を探っていく.上述のような若者ことばは眼につきやすく,一過性のものと考えられるかもしれない.しかし日本語を英語と対照しながら詳しく見ていくと,これらの若者ことばにみられる「ぼかし表現」は,決して偶発的なものではなく,むしろ日本語に深く根ざした性質であることが分かってくる.

書評情報

国語学 54-2 2003年4月1日号
月刊国語教育 2003年4月号
月刊日本語 2003年1月号
月刊言語 2003年1月号
熊本日日新聞(朝刊) 2002年12月8日
時事英語 2002年11月号
毎日新聞(朝刊) 2002年10月2日
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