岩波テキストブックスS

環境経済学

現にある環境問題を前提に,それに対処すべき道具=経済学は何かを提示する,画期的なテキスト.

環境経済学
著者 岡 敏弘
ジャンル 書籍 > 単行本 > 岩波テキストブックス
シリーズ 岩波テキストブックスS
刊行日 2006/04/18
ISBN 9784000280440
Cコード 3333
体裁 A5 ・ 上製 ・ カバー ・ 326頁
在庫 品切れ
既存の経済学(新古典派・制度派・エコロジー経済学……)がどのように環境問題を捉えるかを示し,その処方箋について分析する.そして現実の環境問題を,公害・地球温暖化・有害化学物質・自然生態系破壊に分け,これらの問題に取り組むのに,諸学派の体系をどのように使えばよいのかを明らかにする画期的な教科書.

■著者からのメッセージ

アンケートやインタビューで聞き出した支払意思額によって環境の価値を測るという手法が盛んだが,これに対して,そんなものを政策決定の根拠にできるかと疑いの目を向けている人も多い.マルクス経済学であれば,それに対する批判は一言ですむ――「労働生産物以外に価値はない」と.そんな単純な批判では説得力がないと,現代のマルクス経済学者は考えるだろうか.私はそうは思わない.価値論はマルクス経済学の理論体系の根幹にあり,体系の根幹にあるものを,他の体系の根幹にぶつけることこそが,最も強力な批判だからだ.マルクス価値論はもう古いと思われるだろうか.そんなことはない.マルクスからスラッファを経てパシネッティに至る客観価値説は,内部に論理矛盾がなく,かつ,新古典派の主観価値説よりも現実妥当性が高い.後は,環境の価値を貨幣額として測りたいという欲求を棄てさえすれば,労働価値説に還ることに何の障害もない.そして,貨幣価値計測欲求は,現実を前にして放棄せざるを得ないだろう.これが本書の下敷きにある構図の1つである.
 私が20代前半の時期に傾倒したジョージェスク-レーゲンの経済学に決着を付けることが本書の動機の1つであった.エントロピー概念による経済学の作りかえは成功しなかった.しかし,エントロピー視点を環境経済学に取り入れるべきである.これが結論である.
 論理的に破綻しても生き残っているのは新古典派生産関数である.これを使ったノードハウス・モデルが現実を写しているはずがない.だからこのモデルの中身を解剖した.その中で論じた,GDPとWTPを混ぜることの問題点は,90年代初めにグリーンGDPが出てきた頃に見つけたものである.
 新古典派生産関数を用いることが経済成長論を歪めている.観察可能で意味のある生産性は労働生産性しかなく,経済成長とは労働生産性の上昇である.この成長がなければ経済は立ちゆかないという観念が昨今の経済政策を支配しているが,成長は本来,人間福祉の手段にすぎない.この手段と目的との転倒を暴くことを,古典派以来の偉大な経済学はテーマとしてきた.転倒した観念が再生産される限り,経済学の偉大なテーマは終わらない.環境経済学もその中にあるべきだという思いを込めて書いた.
岡 敏弘(オカ トシヒロ)
1959年生まれ.83年京都大学経済学部卒,88年同大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学,92年京都大学博士(経済学).滋賀県琵琶湖研究所研究員を経て,93年福井県立大学経済学部助教授,現在同大学院経済・経営学研究科教授.専攻は環境経済学,理論経済学.主要著作に,『厚生経済学と環境政策』(岩波書店,1997年),『環境政策論』(岩波書店,1999年)がある
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