数学,この大きな流れ

現代幾何学への道

ユークリッドの蒔いた種

閉曲線のもつ不思議な性質を通して,現代幾何学の真髄を語る.数学者たちの営みを踏まえ生き生きと描く.

現代幾何学への道
著者 砂田 利一
ジャンル 書籍 > 自然科学書
書籍 > 自然科学書 > 数学
シリーズ 数学,この大きな流れ
刊行日 2010/04/28
ISBN 9784000067935
Cコード 3341
体裁 A5 ・ 上製 ・ カバー ・ 350頁
在庫 品切れ
本書の構成は驚きである.それは現代の幾何学のもつ特徴を単に時系列的に明らかにしていくのでなく,閉曲線のもつ不思議な性質を通して,その真髄が見事に再構成される.併せて時に悩み,時に歓喜する数学者たちの営みに思いを馳せながら,学問の歩みを生き生きと活写する.幾何学のひとつの到達点を示した力作.

■編集部からのメッセージ

「幾何学」と言われて、何を思い浮かべるだろうか。学校でならう三角形の性質、とくにピタゴラスの定理に代表される辺の長さや角度にまつわる性質を思い浮かべる人も多いだろう。
 著者は、本書の「あとがき」で次のように書く。

 「幾何学の発祥をユークリッドの『原論』におくとしても,既に2300年の長い時間が経過し,その間に幾何学は外見上大きな変化を遂げている.その途上には,デカルト,ニュートン,ライプニッツ,オイラー,ガウス, リーマン,そしてポアンカレらの「巨人」が登場し,幾何学の対象と方法に大きな影響を与えてきた.しかし,それでも幾何学の本質は古代ギリシャの時代から大きくは変わっていない.その理由は,図形の背後に ある「調和」を見出すことが幾何学の目標であり,たとえ扱う図形が「高度」なものになり,その方法が精巧かつ複雑になっても,この意味では 幾何学者の使命に変わりはないからである.」
 
 このように書く著者の意気込みはすばらしい。簡単な図形の問題、たとえば、以下の図を見られたい。

■編集部からのメッセージ

このような図に注目しつつ、線と線に囲まれた領域を1つの国(α)として、はたしてこれらの国々は2色に塗り分けられるだろうかと問う。ここには、じつに多くの問題が絡む。そもそも、このグラフは一筆で描けるのか。線と線の交わり方、曲がり具合に法則はあるのか。これを、3次元、高次元へと拡張していくとどんなことが生じるのか。
 驚くなかれ、ここから代数学の基本定理、微分積分学の基本定理、はたまた20世紀の至宝の定理とされるアティヤ-ジンガーの指数定理にまで話が及ぶ。そのほか様々な数学概念が融合し、幾何の本質を理解するために昇華していく様は圧巻だ。すなわち、幾何学とは、ユークリッドの時代にそうであったように、数学そのものを問うことにもなるのである。著者渾身の作品をぜひ読んでいただきたい。

プロローグ ――位置の幾何学
  P.1 本書の問題意識
  P.2 位置の幾何学

第 I 部 ユークリッド幾何学から位相幾何学へ
第1章 幾何学の系譜
  1.1 証明
  1.2 ギリシャ数学の系譜
  1.3 古代ローマからルネサンスまで
  1.4 ルネサンスから近世へ
  1.5 座標系
  1.6 課題
第2章 ケーニヒスベルクの橋の問題
  2.1 問題の単純化
  2.2 グラフ
  2.3 オイラーの定理
  2.4 背理法と帰納法
  2.5 オイラー・グラフ
  2.6 グラフ理論の誕生
  2.7 課題
第3章 地図の塗り分けと2色問題
  3.1 平面グラフと地図
  3.2 2色問題の解答
  3.3 頂点の彩色
  3.4 もう1つのオイラーの定理
  3.5 4色問題
  3.6 課題
第4章 巻数と整数割り当て定理
  4.1 整数割り当て定理
  4.2 巻数
  4.3 巻数の計算の仕方
  4.4 課題
第5章 位相幾何学への流れ
  5.1 トポロジー
  5.2 同相
  5.3 曲面の位相幾何学
  5.4 ポアンカレの登場
  5.5 結び目と絡み目
  5.6 課題
 インタールード
  数学の発見
  数学の推理
  数学の類似
  数学の表現
  数学の誤謬
  課題

第 II 部 解析学から位相幾何学へ
第6章 解析幾何学と巻数
  6.1 一般角
  6.2 三角関数
  6.3 写像としての曲線
  6.4 巻数の厳密な定義
  6.5 課題
第7章 巻数の応用
  7.1 代数学の基本定理
  7.2 ポアンカレの指数定理
  7.3 課題
第8章 無限小解析――微分
  8.1 無限小解析の誕生
  8.2 曲線の速度ベクトル
  8.3 微分
  8.4 平均値の定理
  8.5 課題
第9章 無限小解析――積分
  9.1 積分の定義
  9.2 微分積分学の基本定理
  9.3 対数関数と指数関数
  9.4 課題
第10章 閉曲線の無限小解析
  10.1 定理4.3の解析的証明
  10.2 巻数の解析的表示
  10.3 線積分
  10.4 閉曲線で囲まれる面積
  10.5 曲線の長さ
  10.6 課題
第11章 位置の幾何学と複素解析
  11.1 複素解析の勃興
  11.2 複素解析から位置の幾何学へ
  11.3 課題
第12章 閉曲線の回転数
  12.1 回転数
  12.2 弧長媒介変数表示
  12.3 曲線の曲率
  12.4 ホイットニーの定理の証明
  12.5 課題
エピローグ――非ユークリッド幾何学
  E.1 第5公準
  E.2 非ユークリッド幾何学の発見
  E.3 リーマン多様体

 課題への解答とヒント
 あとがき
 参考文献

砂田利一(すなだ としかず)
1948年生まれ.1972年東京工業大学理学部卒業,名古屋大学理学部助教授,東京大学理学部教授,東北大学理学部教授などを経て,現在明治大学理工学部教授,東北大学名誉教授.専門は大域解析学.著書に『幾何入門』 『曲面の幾何』(岩波書店),『新版 バナッハ-タルスキーのパラドックス』(岩波科学ライブラリー),『ダイヤモンドはなぜ美しい』(シュプリンガー・ジャパン)などがある.

書評情報

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