双書 哲学塾

共生から

共生とは異質なものと対立・緊張をはらんだ豊かな関係性をきずくこと.現代的なテーマを説く倫理学講義.

共生から
著者 川本 隆史
ジャンル 書籍 > 単行本 > 哲学
シリーズ 双書 哲学塾
刊行日 2008/04/24
ISBN 9784000281652
Cコード 0310
体裁 B6変 ・ 上製 ・ カバー ・ 158頁
在庫 品切れ
「共生」とは,異質なものと対立・緊張をはらんだ豊かな関係性をきずくことです.「共生」にはさまざまなモチーフがこめられています.孤独,ケア,教育,臨床,エコロジーという問題群から共生を考えます.補講では,「人間の権利」を再定義して人権概念の深化を試みます.もっとも現代的なテーマをやわらかい口調で説く倫理学講義.

■著者からのメッセージ

川本隆史

 本双書の宣伝パンフの段階から,『共生から』は15冊の最後尾に置かれていた.編集者の予想(?)を裏切って,ブービー賞を頂戴できる順位でめでたくゴールインしたことになる.「あとがき」にも記したように,小著は『新・哲学講義』(8巻+別巻1)の第6巻『共に生きる』(1998年)の序説「講義の七日間――共生ということ」と別巻(1999年)に寄せた「人間の権利の再定義――三つの道具を使いこなして」をベースにしている.
 『共に生きる』の「はしがき」は,今でも愛着のある文章なので以下にその一部を再録するとしよう.《哲学塾》の前身ともいうべきこの講義シリーズは,〈生きたことばで語られる,易しく身近な哲学を,私たちの生活の場に取り戻す実験が始まります〉という鳴り物入りで刊行を開始していた.その趣旨にできるだけ副った作品を編もうとする意気込みを,さりげなく綴ったつもりである.



はしがき

 最近出産を体験したばかりの友人が「自分も論文や本が書けない状態を表わすのに〈難産〉とか〈産みの苦しみ〉といった言い回しを使ってきたけど,実際はまったく別物だった.お産のつらさはあんなもんじゃない」と書き送ってきました.彼女の証言が真実だとすれば,師ソクラテスの愛知=哲学の営みを「産婆術」にたとえたプラトンからして,妊産婦の経験を「横領」し勝手に利用していた極悪人にされそうです.ましてその注釈にすぎない(とされる)西洋哲学のごく一部を摘み食いしている私には,どんなお仕置きが待ち受けていることやら…….でもお叱りを覚悟の上で,今回の「責任編集」の作業にも妊娠・出産の比喩を使わせてもらおうと思います.
 産まれる前から名前が付けられていました.「共に生きる」です.どんな性格をそなえてほしいかも,あらかじめ話し合われておりました.親しみやすい言葉づかいや物腰,相手の要望に合わせて色々な語り口をとれる多芸な子,といった具合.
 産婆のメモに基づいて,産声をあげたばかりの赤ん坊を紹介しておきましょう.この子が生まれ落ちた場所は,これまで〈倫理〉と呼ばれてきた領域に属しています.まず「講義の七日間」では,「共生」に込められた異質なモチーフを読み分ける作業から始めて,孤独,ケア,教育,臨床,エコロジーの順に問題群を探査してみました.
 〔中略〕
 では「可愛い子には旅をさせよ」のことわざにならって,新生児を世の中に送るといたしましょう.
[責任編集]川本隆史


 上掲の文章を書いて,はや10年が経とうとしている.分娩の実体験を披瀝してもらった友人は二人目のお子さんを授かり,最初のご子息はもう小学校高学年になる!
 「第二の誕生」(ルソーの原義とは一味違った意味での)を迎えた本書が二番煎じで終わっていないこと,新しい読者を得て(小さくとも)倫理や社会のあり方をめぐる議論の輪を拡げてくれることを願ってやまない.
講義の七日間 共に生きる

第1日 「共生」の両義性

第2日 孤独と共生

第3日 ケアと共生

第4日 教育と共生

第5日 臨床と共生

第6日 エコロジーと共生

第7日 「あなたを苦しめているものは何ですか」

補講 人間の権利の再定義――三つの道具を使いこなして

 

文献
あとがき
川本隆史(かわもと たかし)
1951年生まれ.東京大学大学院教育学研究科教員.専攻:社会倫理学.
著書:『現代倫理学の冒険――社会理論のネットワーキングへ』(創文社),『ロールズ 正義の原理』(講談社)ほか.
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