「あいまい」の知

近年注目されている,曖昧さの本質,その可能性を,自然科学と人文科学の領域をこえて徹底的に論じる画期的な論集.

「あいまい」の知
著者 河合 隼雄 , 中沢 新一
ジャンル 書籍 > 単行本 > 哲学
刊行日 2003/03/25
ISBN 9784000220149
Cコード 0010
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 316頁
在庫 品切れ
近年「曖昧」という概念が注目を集めている.曖昧さの本質,その可能性をめぐって,自然科学と人文科学の世界的な研究者により国際日本文化研究センターで3日間にわたり行なわれたシンポジウムの記録をもとに,新たな執筆者を加え書き下ろす.複雑系から,創造の理論まで,21世紀的知のゆくえを問う画期的な論集.

■著者からのメッセージ

(前略)私は「曖昧」(ambiguity)ということが,現代の状況を読みとく上での大切な「鍵」のひとつである,とかねがね考えていた.私が専門とする,「心理学」ということのみではなく,学問領域で言えば,――本書に示されているように――宗教学から理論物理学にまで及ぶような,広い範囲にわたって,それは重要な視座を提供するものと思われた.
 しかし,その範囲があまりにも広いのと,自分の知識の狭さのために,このようにな企画を具体化できなかったのだが,中沢新一さんより,理論物理学者で仏教に強い関心をもっているという,ピート・ハット教授を紹介され,いろいろと話合っているうちに,彼こそ,「曖昧」について共に語り得る確かな人物であると思い,このようなシンポジウムを,当時,私が所長をしていた国際日本文化研究センターで行なうことにした.(中略)
 このようにして書物になったものを読むと,21世紀における極めて複雑な状況のなかで,それぞれの専門領域において,新しい考えをもつ上で,ヒントになることが数多く見出される,と感じられる.曖昧のなかから,有効で確実なアイデアが生み出される,と思うのである.(後略)

■編集部からのメッセージ

因果性や対象化といった西欧近代の論理とは別の知のありようが探求されるなかで,今,「曖昧(あいまい)」への関心が高まっています.
 ファジー,複雑系,カオス,フラクタルなど,自然科学における「曖昧」は,近年の大きなテーマですし,人文科学においても,言語の解釈を超えた「曖昧」さは,精神医学や芸術など,さまざまな分野で重要視されています.その「曖昧」の本質や可能性を,自然科学と人文科学の世界的な研究者が,それぞれの領域から徹底的に論じたのが,本書『「あいまい」の知』です.
 河合隼雄氏と中沢新一氏の対談,シンポジウムで発表された論考や書き下ろしにより,多彩な角度から「曖昧」へのアプローチがなされています.21世紀の知のゆくえを問う画期的な論集です.
序 曖昧さと「私」 河合隼雄

 I 現代科学の知と「あいまい」の知
  マトリックスについて――華厳経・量子論・心理学 中沢新一
  正確さの根底にある曖昧さ ピート・ハット
  真空――無いことの曖昧さ 佐藤文隆
  模擬世界――複雑系の理論に向けて ジョン・L・キャスティ
  イチ,ニ,サン――何が曖昧さを説明するか? エヴァ・ルーナウ
  科学することの中核にある曖昧さ エヴリン・フォックス・ケラー

 II 「あいまい」の哲学へ向けて
  述語的論理と二十一世紀 町田宗鳳
  言語と文化の差が生む「あいまいさ」について,
 もしくは,「あいまいな日本」を超えるために 鈴木貞美
  見立絵の曖昧さが意味するところ
 ――鈴木春信筆「見立寒山拾得図」をめぐって 早川聞多
  曖昧さと芸術 たほ りつこ
  社会学流アンビギュイティ三題
 ――よそ者,葛藤,恥ずかしさ 柏岡富英
  雪舟の方へ
 ――メルロ=ポンティの「両義性」の哲学から 小林康夫

 III 対話 「あいまい」をどう考えるか 河合隼雄+中沢新一

  あとがき 河合隼雄
河合隼雄(かわい はやお)
  臨床心理学.文化庁長官.著書に『昔話と日本人の心』(岩波現代文庫),『明恵 夢を生きる』(講談社+α文庫),『心理療法序説』(岩波書店)など.
中沢新一(なかざわ しんいち)
  宗教学.中央大学総合政策学部教授.著書に『緑の資本論』(集英社),『フィロソフィア・ヤポニカ』(集英社),『カイエ・ソバージュ 1~3』(講談社選書メチエ)など.
ピート・ハット(HUT,Piet)
  宇宙物理学・計算科学.プリンストン高等研究所教授.
佐藤文隆(さとう ふみたか)
  物理学.甲南大学理工学部教授.著書に『科学と幸福』(岩波現代文庫),『宇宙物理』(岩波書店),『物理学の世紀』(集英社新書)など.
ジョン・L・キャスティ(CASTI,John L. )
  複雑系科学.サンタフェ研究所員,ウィーン工科大学教授.
エヴァ・ルーナウ(RUHNAU,Eva)
  一般相対性理論.ミュンヘン大学教授.
エブリン・フォックス・ケラー(KELLER,Evelyn Fox)
  科学哲学・科学史.マサチューセッツ工科大学教授.
町田宗鳳(まちだ そうほう)
  比較宗教学.東京外国語大学教授.著書にRenegade Monk : Honen andJapanese Pure Land Buddhism,University of California Press,『縄文からアイヌへ――感覚的叡知の系譜』(せりか書房),『法然対明恵――鎌倉仏教の宗教対決』(講談社選書メチエ)など.
鈴木貞美(すずき さだみ)
  日本文芸・文化史(近現代).国際日本文化研究センター教授.著書に『梶井基次郎の世界』(作品社),『日本の「文学」概念』(作品社),『「生命」で読む日本近代――大正生命主義の誕生と展開』(NHKブックス)など.
早川聞多(はやかわ もんた)
  日本美術史.国際日本文化研究センター教授.著書に『与謝蕪村筆夜色楼台図――己が人生の表象』(平凡社),『春画のなかの子供たち――江戸庶民の性意識』(河出書房新社),『春信の春,江戸の春』(文春新書)など.
たほ りつこ
  パブリック・アート.東京芸術大学美術学部教授.著書に『アトランタの空,4万個の手袋飛んだ! ――田甫律子のコミュニティアート』(淡交社)など.
柏岡富英(かしおか とみひで)
  社会学.京都女子大学現代社会学部教授・学部長.著書に『アメリカの思考回路――実験国家・その純真と不遜』(PHP研究所),『日本とは何なのか――国際化のただなかで』(共著,NHKブックス),『世紀末の国際関係――アロンの最後のメッセージ』(共訳,昭和堂)など.
小林康夫(こばやし やすお)
  東京大学大学院総合文化研究科教授.著書に『起源と根源――カフカ・ベンヤミン・ハイデガー』(未来社),『光のオペラ』(筑摩書房),『出来事としての文学――時間錯誤の構造』(講談社文芸文庫)など.
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