シモーヌ・ヴェイユ

よりよき世界を求めて駆けぬけた誠実な先駆者の生涯と,透徹した思索を描いたヴェイユ研究の決定版.

シモーヌ・ヴェイユ
著者 冨原 眞弓
ジャンル 書籍 > 単行本 > 哲学
刊行日 2002/12/18
ISBN 9784000233743
Cコード 0010
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 334頁
在庫 品切れ
シモーヌ・ヴェイユの34年の生涯は,「地表に蔓延する不幸」との闘いであった.教室で,工場で,内戦下のスペインで,祖国を追われ大戦下のロンドンで,よりよき世界のために身を投じた.残された膨大なテクストを読み込み,比類なき誠実さと,その原動力となった清冽な思考の全貌を,みずみずしく描きだす.ヴェイユ研究の決定版.

■著者からのメッセージ

人間は労働によって自己の周囲に宇宙をつくりだす.一日の収穫を終えて,おまえが畑に投げかけたまなざしを思いだせ.散策者のまなざしといかに異なることか.散策者にとって,畑は芝居の書割のごときものにすぎない.
自分の眼のまえに,全世界を,全生命を所有していることを忘れてはならない.おまえにとっての生命は,ほかのいかなる人間にとってよりも,実在的で,充溢し,晴朗なもの足りうるし,また,そうあらねばならない.なんらかの放棄によって,あらかじめ生命の十全性をそこなうな.なんらかの情愛によって自己を牢獄につなぐな.おのれの孤独を守るのだ.

 20代なかばのヴェイユが「カイエ」にしるした言葉です.学生時代からヴェイユは,機会さえあれば,農業や漁業にたずさわる人びとのもとに出かけ,できるかぎり彼らと同じ条件で労働をともにしました.全宇宙の実在性を,頭だけではなく身体で実感することで,マルクス・アウレリウスが述べた意味での「宇宙市民」,つまり真の「コスモポリタン」になろうとしたのです.
労働は,宇宙を実感するために有効な手段であるだけでなく,宇宙を愛するために不可欠の条件でもありました.たやすい情愛をしりぞけて,毅然として孤独を守らなければならないのは,真に愛すべきものを自由に愛するためなのです.
 同時に,理性は普遍にむかうが,心情は特殊へむかうことも,ヴェイユは知っていました.人間は特殊で個別的なものしか愛することができません.ならば,いかにして普遍的な宇宙を愛することができるのか,こうヴェイユは問いつづけました.いいかえれば,特殊で個別的な「くに」を愛することと,普遍的な「宇宙市民」であることを,いかに齟齬なく両立させうるのか,という現代もその緊急性を失っていない難問です.
ここにおそらくヴェイユにとっての「信仰」の意味があります.前半生を革命的サンディカリズムと政治的アンガジュマンにささげたヴェイユが,晩年の亡命時代にいたって,独自の文明論と宗教論に到達した理由でもあったでしょう.
その言動は,ときにエキセントリックとみえるかもしれません.けれども,すべては宇宙をあるがままに理解し,あるがままに愛そうとする決意に裏打ちされていた,とわたしは考えています.
この観点から,ヴェイユが残した多様なテクストを総合的に再構築して,切れ切れの断章や折々の記事をもつらぬく明確なメッセージを読みとる,これが執筆するときの意気込みでした.拙著をきっかけに,すこしでも多くの読者のかたが,ヴェイユ自身の言葉に親しんでくだされば,たいへんうれしく思います.
冨原眞弓(とみはら まゆみ)
1954年生まれ.上智大学外国語学部卒業後,フランス政府留学生としてパリ・ソルボンヌ大学に留学,哲学博士号取得.聖心女子大学哲学科教授.著書に『シモーヌ・ヴェイユ 力の寓話』(青土社),『ヴェーユ』(清水書院),『ムーミン谷へようこそ』(KKベストセラーズ),Resa Med Tove (Schildts, 共著)ほか.訳書にシモーヌ・ヴェーユ『ギリシアの泉』『カイエ3』『カイエ4』(以上,みすず書房),トーベ・ヤンソン『彫刻家の娘』(講談社),「トーベ・ヤンソン・コレクション」(全8+1巻,筑摩書房)ほか.

書評情報

社会新報 2003年11月5日号
神奈川新聞 2003年2月2日
上毛新聞 2003年1月27日
茨城新聞 2003年1月26日
琉球新報(朝刊) 2003年1月26日
山形新聞(朝刊) 2003年1月26日
徳島新聞(夕刊) 2003年1月24日
読売新聞(朝刊) 2003年1月19日
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