親鸞と学的精神

親鸞の主著『教行信証』を有限な人間が絶対知に至りうることを論証した学的著作として読解.著者の絶筆.

親鸞と学的精神
著者 今村 仁司
ジャンル 書籍 > 単行本 > 哲学
刊行日 2009/11/27
ISBN 9784000234719
Cコード 0010
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 254頁
在庫 品切れ
親鸞の主著『教行信証』を有限な人間が絶対知に至りうることを論証した学的著作として読解する著者の絶筆.テキスト構造を解体し,「化身土論」が世俗内の人間が智慧を求める過程の現象学的叙述であるとし,そこに親鸞の人間学を見る.人間社会に倫理的正義を実現することは可能かという社会哲学的問いが,親鸞を現代に蘇らせる.


■内容紹介
 本書は,2007年5月に亡くなった思想史家・今村仁司氏が病いと闘いながら最後に書き上げたものです.世俗内存在である人間が欲望をぶつけ合ってさまざまな悪を繰り返すことから離脱し,法的正義と倫理的正義を実現することはいかにして可能か――このことを西欧思想の文脈で考え続けてきた著者は,清沢満之を通じて親鸞の思想にたどり着きます.
 親鸞の主著『教行信証』は,「教」巻,「行」巻,「信」巻,「証」巻,「真仏土」巻,「化身土」巻という6巻からなる書物です.『無量寿経』を所依の経典とするこの著作は,正式には「顕浄土真実教行証文類」と題され,引用文の集成から成っています.「教」「行」「信」「証」の各巻は,絶対知に至りえた阿弥陀の境地から書かれています.「真仏土」巻は智慧に到達した覚者が住する浄土を語るものです.しかし,著者は「化身土」巻に着目します.この巻が,「悪人」である有限な人間が無限としての阿弥陀の境地に到達する過程の現象学的叙述であることを見いだします.「化身土」巻以外の巻が「永遠の相」の下にあるとすれば,「化身土」巻は歴史的時間の中で進行する過程を描いているのです.『教行信証』は,人間がいかにして自己や他者の現実が無明に覆われていることを認識し,自我のありようを根本的に翻して覚醒に至りうるかを論証した学的著作であると著者は主張します.
 そのほか,「第二部 エセー」ではわかりやすい言葉で,親鸞思想の鍵概念や現代における悪の問題を論じています.また,「則天去私」と「南無阿弥陀仏」の近接性を述べる「漱石と親鸞」もとても興味深い随筆です.
第一部 親鸞研究序説
第一章 清沢満之から親鸞へ
  一 清沢満之との出会い
  二 清沢満之の問い
  三 清沢満之が辿った道
  四 満之から親鸞へ
  五 親鸞をどう読むべきか
  六 親鸞の学的組織
  まとめ
第二章 親鸞と方法の問題
  一 『教行信証』の学的性格
  二 『教行信証』の二部門編制
  三 部門編制の問題点
  四 第一の学的部門――有限者から無限内存在に至る自覚過程
  五 第二の学的部門
  六 第一部門から第二部門への移行
第三章 親鸞における信の位置
  一 信の存在は自明ではないこと
  二 信とパラドクス
  三 有限な世俗人間における信の不可能性
  四 容易と困難(易行と難行)
  五 アポリアの自覚と腑に落ちる知
  六 親鸞の著作の意味
第四章 親鸞と悪人の概念
  一 悪の概念
  二 自力と他力の弁証法
  三 親鸞と哲学
  四 絶対悪からの解放の道
第五章 親鸞における覚醒の問題
  一 四十八本願の縮減
  二 本願の類別
  三 自利利他構造の観点
  四 横超と自利利他
  五 実践の形式的構造
  六 伝統的菩薩像の凡夫への還元
第六章 悪の概念と学の理念
  一 親鸞の人間学
  二 悪人‐存在(悪人であること)
  三 目覚めの過程
  四 法哲学(政治哲学)の萌芽
第七章 浄土門仏教の人間観
  一 原始仏教における悪の観念
  二 浄土門仏教における悪の観念
  三 現代における悪の観念

第二部 エセー
一 本願とは何か――親鸞思想の鍵概念(1)
  経典の語りの作法/説得について/説得法の類型/行為の人間学的基礎/願と行と果報の人間学的統一/方便願と成就願/まとめ
二 凡夫とは何か――親鸞思想の鍵概念(2)
  伝統的な凡夫論/凡夫の概念/凡夫性と煩悩/凡夫と悪の内面的関係(不可分の関係)
三 現代における悪の本質
  現代の悪とは何か/近代システムと自然破壊/有機的自然の「権利」とモラル
四 漱石と親鸞
  青年時代の漱石/晩年の漱石/則天去私と仏教/夏目漱石と清沢満之/死と死後をめぐる問題
今村仁司(いまむら ひとし)
1942-2007年.京都大学経済学部卒業.同大学経済学部大学院博士課程修了.東京経済大学教授.専攻は,社会哲学,思想史.
著書:『社会性の哲学』『抗争する人間(ホモ・ポレミクス)』『清沢満之と哲学』『交易する人間(ホモ・コムニカンス)』『ベンヤミン「歴史哲学テーゼ」精読』 『近代の労働観』『アルチュセール全哲学』『ベンヤミンの〈問い〉』『近代性の構造』『排除の構造』『現代思想の基礎理論』『暴力のオントロギー』『労働のオントロギー』『アルチュセールの思想』ほか

書評情報

朝日新聞(朝刊) 2010年2月7日
日本経済新聞(朝刊) 2010年1月17日
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