心をつくる

脳が生みだす心の世界

脳が知っていることを《私》はどこまで知っているのか.古今の研究成果から脳と心の関係を解き明かす.

心をつくる
著者 クリス・フリス , 大堀 壽夫
ジャンル 書籍 > 単行本 > 心理・精神医学
刊行日 2009/05/28
ISBN 9784000063128
Cコード 0011
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 294頁
在庫 品切れ
脳が知っていることを《私》はどこまで知っているのか.すべては脳を通してやってくる.心の世界と物理世界の区別は,脳が創り出す「錯覚」だ.脳は何を隠し,何を伝えているのか.脳イメージング研究の先駆者である著者が,古今の心理学実験や臨床研究の科学的成果をふんだんに盛り込みながら,脳と心の関係を明快に解き明かす.

■著者からのメッセージ

私の頭の中には,いろいろなことの能率を上げてくれる驚くべき仕掛けがある.その優秀さは食器洗い機や電卓の比ではない.脳は周りの世界にあるものを認識するという,退屈で繰り返しの多い作業から人を解放し,自分の動きをどう操ったらいいのか考える作業を節約してくれる.そのおかげで,私は友達を作ったり,考えを分かちあったりという,人生の重要なことに集中できるのだ.だがもちろん,脳は日々の雑事を片づけてくれるだけではない.脳は「私」を生み出し,社会という世界へ送り出してくれる.さらに,脳のはたらきによって私は心の中にあることを友人と共有し,一個人ではできない大きなものを創造することまで可能となるのだ.この本は,脳がどうやってこのような魔法を行なうのかを描き出したものである.
(「まえがき」より)

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図P・7 実際の運動と想像上の運動をしているときの脳画像
イラストは脳の活動を見るために横断面図(上部と中間部)を撮った位置を示す.上の断面図は右手を実際に動かすときの脳活動を,下の断面図は動きを想像したときの脳活動を示す.

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図5・2 私たちはエッジによって対象を最もうまく認識する
顔はエッジだけで容易に認識されるが(右の図),微笑みはぼやけた画像からのほうが認識しやすい(左の図).

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図6・7 他の者が動くのを見ると自分の動きに干渉する


図P・7 Stephan, K. M., Fink, G. R., Passingham, R. E., Silbersweig, D., Ceballos-Baumann, A. O., Frith, C. D. & Frackowiak, R. S.(1995). Functional anatomy of the mental representation of upper extremity movements in healthy subjects. Journal of Neurophysiology, 73(1), 373-386.中の図1と図3をもとに描き直したもの.

図5・2 Livingstone, M. S. (2000). Is it warm? Is it real? Or just low spatial frequency? Science, 290(5495), 1299. から.

図6・7 Kilner, J. M., Paulignan, Y. & Blakemore, S. J. (2003). An interference effect of observed biological movement on action. Current Biology, 13(6), 522-525.中の図1と2.
まえがき
 謝辞

プロローグ ホンモノの科学者は心など研究しない
心理学者のパーティー恐怖症/ハードな科学とソフトな科学/ハードな科学は客観的・ソフトな科学は主観的/大きな科学はソフトな科学を救えるか?/心の活動を計測する/心は物理現象から生まれるか?/私はあなたの心が読める/脳はいかに世界を創造するか

第1部 脳の作る錯覚から透かし見る

第1章 脳の損傷例を手がかりとして
  物理世界を感じること/心と脳/脳がわかっていないとき/脳はわかっているが心に伝えないとき/脳が嘘をつくとき/脳の活動からどうやって誤った知識が作られるか/あなたの脳に嘘をつかせる方法/経験の現実性をチェックする/どうやって何が現実かを知るのか?

第2章 正常な脳が世界について語ること
  意識という錯覚/脳は隠す/脳は歪める/脳は創造する

第3章 脳が身体について語ること
  優先的アクセス?/境界はどこに?/自分のやっていることがわからない/コントロールするのは誰か/私の脳は私抜きでも完全に動作する/脳の中の幽霊/私にはどこも悪いところはない/誰がそれをやっているのか?/どこに「あなた」はいるのか?

第2部 脳のやり方

第4章 予測によって先んじる
  報酬と罰のパターン/脳はどうやって私たちを世界に埋め込み,そのあとで私たち自身を隠すのか/コントロールしているという感覚/システムが破綻するとき/世界の中心にいる見えない行為者

第5章 私たちが知覚する世界とは現実と対応した幻想である
  脳は物理世界の知覚を容易に創り出す/情報革命/賢い機械は実際に何ができるのか?/情報理論の問題/トマス・ベイズ牧師/理想のベイジアン・オブザーバー/ベイジアン脳は世界のモデルを構築する/この部屋にはサイがいる/予備知識はどこからくるのか?/動作は世界について教えてくれる/知覚しているのは実際の世界ではなく脳内の世界モデルである/色は世界ではなく脳にある/知覚とは現実と対応した幻想である/人は感覚の奴隷ではない/では何が現実か知るには?/想像の世界は退屈の極み

第6章 脳はどうやって心をモデル化するか
  生物学的運動――生き物の動き方/運動はどのように意図を明らかにするのか/模倣/模倣――他者の目的を理解する/人間とロボット/共感/動作主体としての経験/特権的アクセスの問題/動作性の錯覚/自分以外の動作主体という幻覚

第3部 脳と文化

第7章 心を共有する――脳はいかにして文化を創造するか
  翻訳における問題/意味と目的/逆問題の解をもとめる/予備知識と先入観/彼は次に何をする?/他人は伝染する/話すだけがコミュニケーションではない/教えるということは模倣すべきものを実演するだけではない/コミュニケーションの輪を閉じる/フォーク・ハンドルズ――二人のロニーが(ゆるゆる)輪を閉じる/輪を完全に閉じるには/知識は共有できる/知識は力なり/真実とは

エピローグ 私と脳と
  クリス・フリスと私/脳内に意志を探す/トップ・ダウンのコントロールのトップはどこか?/ホムンクルス/この本は意識について書いたものではない/なぜ人はよくしてくれるのか(公平にあつかわれている限り)/錯覚すらも責任がある
 訳者あとがき
 図版出典一覧
 証拠(参考文献一覧)
 索引
クリス・フリス(Chris Frith)
1942年生まれ.ロンドン大学ユニバーシティカレッジ神経学研究所ウェルカムトラスト脳イメージングセンター名誉教授(神経心理学),オーフス大学ニールス・ボーア客員教授職.
大堀壽夫(おおほり としお)
東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻准教授.言語学専攻(意味論,機能的類型論). 著書に『認知言語学』(東京大学出版会),訳書にウェイリー『言語類型論入門』(岩波書店),トマセロ『心とことばの起源を探る』(共訳,勁草書房)などがある.

書評情報

日経サイエンス 2010年5月号
日経サイエンス 2009年10月号
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