モダンガールと植民地的近代

東アジアにおける帝国・資本・ジェンダー

10人の研究者が,中国・日本・沖縄・朝鮮・台湾の図像・漫画・言説・男女の生から多角的に解読.

モダンガールと植民地的近代
著者 伊藤 るり , 坂元 ひろ子 , タニ・E.バーロウ
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2010/02/25
ISBN 9784000253062
Cコード 0020
体裁 A5 ・ 並製 ・ 340頁
在庫 品切れ
断髪,洋装,シガレット.帝国が領土と市場を求め激突する最中,人々の憧憬と敵意とを集めた女性像=モガ.このグローバルな現象はいかに現れ何をもたらしたか.強力なジェンダー力学を構築した歴史の一断面を,10人の研究者が,中国・日本・沖縄・朝鮮・台湾の広告図像・漫画・言説・実在の男女の生から多角的に解読する.


■編集部からのメッセージ
 断髪,洋装,シガレット.新しもの好きで自由恋愛主義――帝国が領土と市場をめぐって激突する最中,人びとの憧憬と敵意とを集めたコスモポリタンな女性像「モガ」.「モダンな女」がいまだ不在の東アジアで,彼女の姿(イコン)が雑誌・文学・諷刺漫画・広告図像に忽然と出現するや,それは賞賛と揶揄を巻き起こし,その表象と言説の力学はジェンダー,階級,エスニシティを新たなヒエラルキーのもとへと再編成していった…….
  本書で10人の執筆者たちが分析するのは,1920~30年代に世界中に波及した,このようなまったく新しい,胸躍る,そして得体のしれない現象です.では,「モダン」が「グローバル」に波及しようとするシーンに,どのような切り口で立ち合うのか,本書の編集委員たちによる序論からご紹介しましょう.
 「モダンガールの像は,ハリウッド映画だけでなく,新聞の商品広告,ポスター,写真,漫画,小説,挿絵など,多くの大衆メディアで描かれ,夥しい量で流通した.これらの像と,「モダンガール」だと名指された個々の女性主体をただちに同一視することはできないし,無媒介に両者を重ね合わせることもできない.では,両者はいかなる関係にあると考えればよいのか.」(中略)
 「実在の女性と捉えて,その社会的実態を探るのではなく,いたるところで,また少しずつ様態を変えながら,反復的に現れるモダンガールの像(あるいはイコン)に,個々の女性や男性が主体として,どうして,またどのようにして惹きつけられ,これを参照点としたのかを読み解く,という方法も考えられる.このような問題意識に立って,本書は,後述するような東アジアの植民地的近代という歴史的文脈で,像としてのモダンガールの働きに着目する.」(ともに本書序論より)
 だれもがすぐに理解できるシンボル的な図像,イコン.本書は多くの興味深い資料図版を掲載していますが,カバーには,とりわけミステリアスに輝くコスモポリタン女優・李香蘭の図像――その1941年の資生堂石鹸の大陸向け広告ポスター――を,モチーフに使っています.
 そのほかに,上海の雑誌の「モダンな商品」(衛生用品など)のイラスト広告シリーズの「セクシー・モダンガール」,風刺漫画界に彗星のように登場し消えた女性漫画家の作品,おなじころの『琉球新報』に連載された沖縄のモダンなお嬢様がたを紹介するシリーズ記事,などなど,身近な媒体で人びとをとらえた図像や言説をあつめ,各章で解読してゆきます.
 また,重要なのは,これらの図像・言説の分析を,東アジアの植民地的近代,という,歴史の強大な力関係の磁場の現象として各章が位置づけ,そこに生きる人びとのりリアリティと交差させることで,分析をよりとぎすませていることです.
 「本書で「東アジア」として実際に取り上げられるのは,中国,日本,沖縄,朝鮮,台湾である.これらの植民地的近代の諸社会は不可避的に民族として自らを構築し統合しなければならなかった.そのなかで,帝国主義の諸勢力はどのように「啓蒙」的文明論を展開し,またこれらの社会はどのように不均衡なかたちでジェンダー問題とかかわりつつ,これを内在化していったのか.」(同前)
 この問いを,以下の目次のように三部構成から投げかけます――モダンな消費広告として人びとになげかけられるファンタジー(第 I 部資本の欲望),その視覚的・言説的な刺激は,ジェンダー,階級,エスニシティ,民族,文明化など,いかなるヒエラルキーとして構築されるか(第II部 まなざしの政治),モダンに突入する困難に満ちた時代に,生身の女性たちはどのように,新しいさまざまな選択を選び取っていったか(第III部 帝国を生きる).ぜひ各章のタイトルもご覧ください.
 本書は2002年からスタートした国際共同研究,国際会議,公開シンポジウムでの議論と交流を経て,産み出されました.中国語・韓国語・英語・日本語のとびかう場は,困難も大きかったけれど刺激も発見も,交流の楽しみも,ひときわ大きかったとのことです.
  歴史学,社会学,近代文化研究のフィールドと国境をこえて連結させた共同研究の学術論文集が,これほどの緊張感と共同作業意識をもって,手に取りやすい魅力的な成果となったことを,編集部も心から嬉しく思います.
序論 東アジアにおけるモダンガールと植民地的近代
<編集委員>伊藤るり,坂元ひろ子,バーバラ・H・佐藤,タニ・E・バーロウ,ヴェラ・マッキー

Ⅰ 資本の欲望
1 奢侈と資本とモダンガール――資生堂と香料石鹸 足立眞理子
2 買うということ――一九二〇年代及び三〇年代上海における広告とセクシー・モダンガールのイコン タニ・E・バーロウ(伊藤るり,結城淑子訳)

Ⅱ まなざしの政治
3 宗主国のまなざし――視覚文化に見られるモダンガール ヴェラ・マッキー(菅沼勝彦訳)
4 漫画表象に見る上海モダンガール 坂元ひろ子
5 新しい女・モガ・良妻賢母――近代日本の女性像のコンフィギュレーション 牟田和恵

Ⅲ 帝国を生きる
6 『婦人之友』における洋装化運動とモダンガール 小檜山ルイ
7 植民地的近代と消費者の欲望――二〇世紀初頭の日本における下層中流階級ならびに労働者階級の女性たち バーバラ・H・佐藤(近藤康裕訳)
8 女の移動と植民地的近代――沖縄のモダンガール現象への接近 伊藤るり
9 植民地台湾の「モダンガール」現象とファッションの政治化 洪郁如
10 朝鮮の植民地知識人,羅錫(ナ・ヘソク)の近代性を問う 金恩実(藤井たけし訳)

 あとがき
 関連略年表
 主要参考文献
「*」は本書編集委員

足立眞理子(あだち まりこ/第1章)
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授,同ジェンダー研究センター長.経済理論,国際経済学,フェミニスト経済学.

タニ・E・バーロウ* Tani E. Barlow (第2章)
ライス大学(米国)チャオ・アジア研究センター長,歴史学部教授,近代中国思想史・女性学.

ヴェラ・マッキー* Vera Mackie (第3章)
メルボルン大学(オーストラリア)文学部歴史学科教授.日本近現代史,ジェンダー研究.

坂元ひろ子*(さかもと ひろこ/第4章)
一橋大学大学院社会学研究科教授.中国近現代思想文化史.

牟田和恵(むた かずえ/第5章)
大阪大学大学院人間科学研究科教授.社会学,女性学.

小檜山ルイ(こひやま るい/第6章)
東京女子大学大学院現代文化研究科教授.アメリカ社会史,日米比較文化.

バーバラ・H・佐藤* Barbara Hamill Sato(第7章)
成蹊大学文学部教授.日本近代史,女性史.

伊藤るり*(いとう るり/第8章)
一橋大学大学院社会学研究科教授.国際社会学,国際移民研究,ジェンダー研究.

洪郁如(こう いくじょ/第9章)
一橋大学大学院社会学研究科准教授.近現代台湾社会史,女性史.

金恩実(きむ うんしる/第10章)
梨花女子大学(韓国)女性学科教授.人類学.

《翻訳者》
結城淑子(ゆうき よしこ/第2章翻訳)
共立女子大学非常勤講師.20世紀イギリス小説.

菅沼勝彦(すがぬま かつひこ/第3章翻訳)
大分大学国際教育研究センター講師.クィア理論,異文化コミュニケーション.

近藤康裕(こんどう やすひろ/第7章翻訳)
日本学術振興会特別研究員.英文学,文化研究.

藤井たけし(ふじい たけし/第10章翻訳)
歴史問題研究所(韓国)研究員.朝鮮現代史.

書評情報

ダ・ヴィンチ 2012年5月号
歴博 第169号(2011年11月)
史学雑誌 第120編第9号(2011年9月)
ジェンダー研究 第14号(2011年3月)
中国女性史研究 第20号(2011年)
ふぇみん 2010年8月15日号
週刊読書人 2010年7月23日号
日本経済新聞(夕刊) 2010年6月30日
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