ねじ曲げられた桜

美意識と軍国主義

戦争を遂行する日本国家と国民の間に起きた,桜をめぐる「相互誤認」を証明する,象徴人類学の見事な成果.

ねじ曲げられた桜
著者 大貫 恵美子
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2003/04/22
ISBN 9784000017961
Cコード 0021
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 622頁
在庫 品切れ
半世紀余り前,日本の将来を担うべき多数の若者が,「カミカゼ」に搭乗して海の藻くずと消えていった-「桜が散るように」.為政者は桜の美しさを,ナショナリズム高揚と戦争遂行に利用したのだ.そのとき国家と国民のあいだに起こった「相互誤認」を,学徒特攻隊員の日記をきめ細かに分析して証明する.象徴人類学の見事な成果.

■著者からのメッセージ

本書の始まりは花見の研究であったが,日本の全体主義政権がいかに桜の美的価値を利用したかに気づいた後は,その分析が中心を占めた.紆余曲折を経た長い年月の研究を支えたのは,特攻隊員たちの日記に表現された,夜読むと眠れないほどの,あまりにも悲劇的で強力な,隠れもない理想主義と学ぶことへの情熱であった.他方,これらの若者たちの命を奪ってしまった日本の軍国主義に対する怒りが日々増していった.しかし可能なかぎりの冷静さで,桜の美的価値と象徴によるコミュニケーションに常に伴う「解釈のずれ」を中心に,どのように美しい桜の「幹がねじ曲げられて」きたのかを精緻に検証した.世界平和への祈願をこめた,人類学の成果を是非読んでいただきたいと思う.
はじめに
序 章

第1部
第1章 桜の花と生と再生の美学
  米の相応物としての桜の花/女性としての桜の花/愛の祝賀,壮麗の祝賀/人生の謳歌/死と再生としての桜の花/要約

第2章 もののあわれの美的価値――咲く桜から散る桜へ
  生の輝きと無常/要約

第3章 仮想の世界の美と桜――自己と社会の規範を超えて
  己を無にすることの美しさ/別宇宙の美的価値/要約

第4章 文化的ナショナリズムと桜の花の美的価値
  古代の貴族階級における文化的ナショナリズムの台頭/江戸時代における「桜の国土」としての日本/要約


第2部
第5章 天皇の二つの身体――主権,神政,軍国主義化
  近代化/西洋化/日本の内憂外患/大日本帝国憲法の制定/天皇/王権の源泉性(primordiality),日本人の源泉性/父としての天皇/軍の統帥者としての天皇/近代的軍隊の創設/国立神社の創建/聖なる王/王権/明治憲法・政府への批判と反対/軍国主義発展への転機/要約

第6章 桜の花の軍国主義化――桜の花が戦没兵士の生まれ変わりになる過程
  「近代的」日本人の多様なる自己表象/文化的ナショナリズム,政治的ナショナリズム,軍国主義/靖国神社/軍の徽章/散る桜としての戦死/「武士道」の再製(refashion)/戦没兵士の生まれ変わりとしての桜の花/「日本の空間」の創造/要約

第7章 国土の象徴としての桜の花――民衆の軍国主義化
  教科書/学校唱歌と流行歌/大衆演劇/要約


第3部
第8章 「運命を選ぶ自由」――特攻隊の成り立ち
  特攻作戦についての刊行物/特攻隊の成り立ち/特攻隊員たちの生活/特攻隊への「志願」/「運命を選ぶ自由」/出撃前夜/遺族の声/要約

第9章 特攻隊員の手記
  戦没兵手記/5人の特攻隊員の手記/要約


第4部
第10章 国家ナショナリズムとその「自然化」の過程
  ナショナリズム/自然化によって連続したものとなる歴史的非連続

第11章 グローバルな知的潮流を源泉とする愛国心
  彼らのユートピア/ロマン主義その他の知的潮流/「汝の国のために死ぬことは快く立派である」か

第12章 幹を曲げられた桜
  メコネサンス/歴史上のエージェント

要約

注/引用文献/付録――特攻隊員4人の読書リスト/索引
大貫恵美子(おおぬき えみこ)
神戸生まれ.津田塾大学卒業.1968年,ウィスコンシン大学人類学博士号取得.現在ウィスコンシン大学ウィリアム F.ヴァイラス研究専任教授.アメリカ学士院正会員.
日本語の著書に『日本人の病気観――象徴人類学的考察』『コメの人類学』(以上,岩波書店),『日本文化と猿』(平凡社)など.

書評情報

Luz(ルース) 2003年8.9月号
産経新聞(朝刊) 2003年8月3日
朝日新聞(朝刊) 2003年6月29日
朝日新聞(夕刊) 2003年6月12日
京都新聞(朝刊) 2003年6月1日
徳島新聞(朝刊) 2003年6月1日
毎日新聞(夕刊) 2003年5月30日
毎日新聞(夕刊) 2003年5月29日
ジャーナリスト542号 2003年5月25日号
北海道新聞(朝刊) 2003年5月25日
四国新聞 2003年5月24日
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