薩摩・朝鮮陶工村の四百年

近世に始まる朝鮮由来の村の現地調査を行い,その歴史を東アジア世界の中に位置づけながら明らかにする論集.

薩摩・朝鮮陶工村の四百年
著者 久留島 浩 , 須田 努 , 趙 景達
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2014/07/30
ISBN 9784000230568
Cコード 0021
体裁 四六 ・ 474頁
在庫 品切れ
一六世紀末,「文禄・慶長の役」という豊臣秀吉の朝鮮侵略によって連行されてきた陶工たちが,有田・伊万里・萩などの各地で焼物作りをしてきたことは,よく知られている.その一つ,薩摩焼発祥の地として知られる苗代川の現地調査を行い,その歴史を東アジア世界の中に位置づけながら,多角的に明らかにする論集.

■編集部からのメッセージ

日本の焼物の歴史をたどっていくと,「文禄・慶長の役」といわれる豊臣秀吉の朝鮮侵略と深い関係のあることが分かります.16世紀末のこの戦争によって朝鮮半島から連行されてきた陶工たちとその末裔によって,有田,伊万里,萩などの焼物が作られてきたのです.
 ここで取り上げられている苗代川(現在の鹿児島県日置市東市来町美山)の地域も,その一つで,薩摩焼発祥の地として知られています.
 この村は,かつて司馬遼太郎の『故郷忘じがたく候』で有名になりましたが,本書は,その風土と四百年にわたる歴史を東アジア世界の中に位置づけながら,明らかにする一冊です.
 下記の目次をご覧いただければ,おおよその内容がお分かりいただけると思いますが,近世・近代の通史をはじめ,白薩摩・黒薩摩と称される薩摩焼の歴史,「姓名」や信仰の問題,西南戦争・日清戦争・日露戦争や植民地朝鮮とのかかわり,柳宗悦の民芸運動に及ぼした影響など,多彩なものになっています.また,巻末には,一五代沈壽官・児玉英作両氏への貴重なインタビュー,鮫島佐太郎氏の小伝を収録して,苗代川に暮らしてきた人びとの声を伝えるべく構成しています.
 私もこの本を作るために,編者・執筆者の方々とともに,二度苗代川を訪れましたが,伝えるべき歴史がたくさんある村であることを肌で感じました.ぜひ最寄りの書店で手にとってみてください.
(編集部 平田賢一)
はじめに(久留島 浩・須田 努)
苗代川略年表(趙 景 達)
第1部 総論
近世の苗代川 (久留島 浩)
一 朝鮮からの渡来と苗代川への集住―― 一七世紀の苗代川
二 陶工たちの「村」としての展開―― 一八世紀の苗代川
三 苗代川の生活―― 一九世紀の自画像と他者像(創り・創られた苗代川像)
四 一九世紀の苗代川の新たな展開
苗代川の近代史 (趙 景 達)
一 明治維新と苗代川
二 西南戦争と苗代川
三 苗代川の発展と日本化
四 日清・日露戦争と苗代川
五 朝鮮の植民地化と苗代川
六 一五年戦争期の苗代川
七 苗代川の戦後
第2部 近世から近代へ
考古学資料から見た近世苗代川の窯業 (渡辺 芳郎)
はじめに
一 苗代川のはじまり
二 堂平窯跡資料から見た一七世紀の苗代川窯業
三 一八世紀以後の苗代川窯業
おわりに 
「苗代川人」という主体 (須田 努) 
―”朝鮮由来の異邦”の移住からアイデンティティーの確立・崩壊まで 
はじめに
一 苗代川居住経緯の解明
二 「苗代川人」の形成
三 「苗代川人」の終焉
おわりに
窯業産地としての苗代川の形成と展開 (深港 恭子) 
――薩摩焼生産の歴史
はじめに
一 窯業産地としての苗代川の地域形成
二 記録にみる茶陶から白薩摩・黒薩摩への展開
三 苗代川御取救と幕末への展開――肥前伝焼物窯を中心に
四 幕末から明治期における輸出の展開――沈壽官窯を事例に
結びにかえて
朝鮮人村落「苗代川」の日本化と解体 (井上 和枝) 
はじめに
一 朝鮮人村落「苗代川」の形成
二 薩摩藩の「朝鮮風俗」維持政策と日本化
三 苗代川の近代と「姓」・「氏」
四 「苗代川」から「美山」へ――朝鮮人村落の解体
おわりに
近世の苗代川と玉山宮をめぐる言説について (鈴木 文) 
はじめに
一 他者からみた苗代川と玉山宮
二 再認識される玉山宮の由来と檀君
おわりに
第3部 近代の苗代川
西南戦争と苗代川 (大武 進) 
はじめに
一 陶工集団にとっての戊辰戦争
二 苗代川の陶工集団と西南戦争
三 「士籍編入之願」の展開
四 「士籍編入之願」後の士分化願望
終わりにかえて
苗代川と「改姓」 (小川原 宏幸) 
――東郷茂徳にみる二つの差別からの脱却とその苦脳
はじめに
一 明治維新と苗代川――「士籍編入之願」の挫折
二 朝鮮式姓から日本式氏への二つの改姓類型
むすび――二重の差別からの脱却としての立身出世主義とその苦脳
日清・日露戦争と苗代川「朝鮮人」 (愼 蒼 宇) 
はじめに
一 日清・日露戦争と苗代川
二 軍人たちの戦争経験とその意識
おわりに
第一三代沈壽官と植民地朝鮮 (宮本 正明) 
はじめに
一 第一三代沈壽官の朝鮮関係の活動
二 第一三代沈壽官の見解・認識
三 苗代川の歴史・住民に対する視線のありかた
おわりに
柳宗悦・民芸運動と苗代川の近代 (檜皮 瑞樹) 
はじめに
一 柳宗悦の陶磁器論と民窯論
二 薩摩焼をめぐる相克
三 苗代川にとっての民芸運動
おわりに 
付録 インタビューと人物
鮫島佐太郎 (深港 恭子――苗代川の黒もんづくり)
苗代川と薩摩焼の伝統―― 一五代沈壽官は語る(構成・整理 趙 景 達)
通詞の家に生まれて―― 児玉英作氏インタビュー(構成・整理 小川原 宏幸)


あとがき(趙 景 達)
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