天皇制史論

本質・起源・展開

天皇制の歴史的展開の全容を古代から近現代まで通史的に叙述.法制史の観点からその構造と特質を解明する.

天皇制史論
著者 水林 彪
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2006/10/27
ISBN 9784000240222
Cコード 0021
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 392頁
在庫 品切れ
天皇制の本質とは何か,天皇制はなぜ時代を超えて持続しえたのか──本書は,この問いに法制史研究の立場から答えるべく,古代の律令天皇制から現憲法下の象徴天皇制にいたる歴史的展開を,一貫した視点のもとに通史的に叙述.中国・西欧との比較史的分析も交えつつ,この国の「支配と法の歴史」の特質を解明する.

■著者からのメッセージ

 天皇制史を論ずるにあたって留意したことの一つは,この国の特殊性だけを強調する議論にはしたくない,ということであった.長期持続という現象一つをとっても確かに特殊なように見える天皇制現象を,私は,社会科学の諸理論や中国・西欧の歴史を参照することを通じて,単なる特殊ではなく,普遍を媒介とした特殊として認識したいと考えた.
 天皇制の通時代的存続の根拠を,人類学やその影響を受けた歴史学は,しばしば,天皇制の宗教的権威に求めていくが,私は,こうした考え方も否定した.否定することそれ自体は,困難なことではなかった.何よりも,このような考え方を支持する事実が存在しないからである.大嘗祭など,天皇の宗教的権威なるものの核心にあると思われている祭祀が,中世後期から近世前期にかけて,長期にわたって途絶したという事実が厳然として存在するのである.しかし,祭祀が完全に途絶しながらも,天皇制それ自体は存続した.この事実の背後に,天皇制の本質が潜んでいるに違いない.この本質を抉り出し,さらに,そこから天皇=宗教的権威なる仮象が生成する論理を解明することは,容易なことではなかったが,本書はこの課題に挑戦したものである.
 天皇制を,列島に自生した,太古からの伝統のように考える人がいるが,本書は,このような考え方も否定した.人類史的次元で考えるならば,天皇制は,七世紀末という比較的に新しい時代に成立したものであり,かつ,それまで列島に存在していた秩序(古層)に,中国から輸入された文化(新層)が接ぎ木されたところに形成されたものであった.天皇制は比較的に新しい外来文化である.
 本書は,三十年余におよぶ私の日本国制史研究を,天皇制の歴史という観点からまとめてみたものである.長い年月をかけたにもかかわらず,貧しい成果しか生み出しえなかったことは,恥ずかしい限りであるが,私なりに努力した思考の記録であり,読者のご批判・ご教示を得たいと思う.
序 論
第一章 基本的諸概念
  第一節 支配の正当性
  第二節 国制の基本的二類型
  第三節 国制の経済的基礎
  第四節 国 家


第二章 中国における律令国家体制の形成と構造
  第一節 日本古代史における国際的契機の性格
  第二節 国制史的大転換
  第三節 前期郡県制の歴史的性格
  第四節 中国国制史における律令の歴史的位置


第三章 大化前代の国制
  第一節 未開的共同態的社会構成
  第二節 ヤマト政権・前方後円墳体制
  第三節 ヤマト王権の形成
  第四節 ヤマト王権の確立――〈天神(権威)―天皇(権力)〉秩序


第四章 律令天皇制
  第一節 日本律令体制形成の概括的特徴
  第二節 主権的王権――命令的秩序
  第三節 制度的領域国家体制的外観の
   人的身分制的統合秩序的本質――身分契約秩序
  第四節 人的身分制的統合秩序の制度的領域国家体制適合的変容
  第五節 権威・権力秩序の全体構造


第五章 律令天皇制的原型の展開と対抗――(一)奈良~室町時代
  第一節 高権力浸透史論(集権・分権論)と支配の正当性史論
  第二節 律令天皇制的原型の展開諸形態
  第三節 大化前代的古層の持続と展開


第六章 律令天皇制的原型の展開と対抗――(二)戦国~幕藩制時代
  第一節 村落共同体と国人一揆
  第二節 大名権力の正当性の二つの型
  第三節 統一政権・幕藩体制における権力と権威
  第四節 主従制・官職制史論批判
  第五節 天皇=宗教的権威説批判


第七章 西欧中世の権威・権力秩序
  第一節 身分制議会的国制
  第二節 中世都市
  第三節 秩序の全体


第八章 近現代天皇制への展望――大日本帝国憲法と日本国憲法
  第一節 西欧近代の権威・権力秩序
  第二節 帝国憲法体制における権威・権力秩序
  第三節 日本国憲法体制における権威・権力秩序


  注
  あとがき
  参考文献
  索 引

水林 彪 (みずばやし たけし)
目次

1947年生.1970年東京大学法学部卒業,1972年東京大学大学院法学政治学修士課程修了.東京大学法学部助手,東京都立大学法学部助教授・教授を経て,2005年より一橋大学大学院法学研究科教授.専攻は日本法制史.
著書に,『封建制の再編と日本的社会の確立』(「日本通史2」山川出版社,1987),『記紀神話と王権の祭り 新訂版』(岩波書店,2001),『日本近代思想大系7 法と秩序』(共編著,岩波書店,1992)などがある.
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