ハンセン病と戦後民主主義

なぜ隔離は強化されたのか

なぜ絶対隔離政策は戦後も継続したのか.「戦後民主主義」の論理に含まれる差別の契機を明らかにする.

ハンセン病と戦後民主主義
著者 藤野 豊
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2006/10/17
ISBN 9784000244350
Cコード 0021
体裁 四六 ・ 上製 ・ 226頁
在庫 品切れ
戦時ファシズム体制の下で確立した日本のハンセン病患者隔離政策.なぜ,治療法が確立し,基本的人権がうたわれた戦後においても,絶対隔離下の断種や堕胎の強制が継続したのか.1953年の「らい予防法」成立過程に焦点をあわせながら,「戦後民主主義」の論理そのもののなかに差別の契機が含まれていたことを明らかにする.


■著者からのメッセージ
 ハンセン病患者への絶対隔離政策を日本ファシズムの優生政策の一環として捉えた『日本ファシズムと医療――ハンセン病をめぐる実証的研究』を岩波書店から上梓したのは,1993年のことであった.当時は,まだ「らい予防法」も「優生保護法」も存在していた時代で,ハンセン病問題への社会の関心も低かったが,同書は,歴史学研究者だけではなく,むしろ医療・福祉の専門家,そして何より多くのハンセン病回復者の方々に読んでいただくことができた.その後,1998年7月にハンセン病国賠訴訟が起こされると,原告・弁護団・支援者の方々にも読んでいただき,お陰で版を重ねることができた.
 しかし,この裁判の過程でも鮮明になったように,絶対隔離政策が完成したのはファシズムの時代であったとしても,それは戦後になっても維持・強化されたのであり,単にファシズムとの関連を追うだけでは,絶対隔離の思想を解明することはできないのである.絶対隔離の思想はファシズムのみに由来するものではない.ファシズムから戦後民主主義へ,いかに絶対隔離の思想は継承されたのか.わたくしは,戦後の絶対隔離政策を戦後民主主義との関連で論じる続編を執筆しようと志し,本書のなかで,ようやくその思いを実現することができた.
 戦後,基本的人権の尊重をうたう日本国憲法のもとで,しかもハンセン病の特効薬プロミンが普及するなかで,なぜ,隔離は強化され,患者への強制断種,強制堕胎が維持されていったのか.戦後民主主義が不徹底だったからではなく,戦後民主主義の論理そのものにその原因があるのではないか.本書では,その疑問を実証し,新たな民主主義の論理,少数者のための民主主義の論理を追求した.
序章 ハンセン病絶対隔離政策史ヘの視点
1 戦後隔離政策の前史
2 世界の隔離と「日本型隔離」
3 本書の課題

第1章 絶対隔離と強制断種・再考――「特殊部落調附癩村調」の意味するもの
はじめに
1 「特殊部落調附癩村調」とは何か
2 部落問題とハンセン病
3 「体質遺伝説」――強制断種のための隔離
おわりに

第2章 継続する隔離――戦前・戦後をつなぐ思想
はじめに
1 入所者自治会運動への警戒
2 「癩刑務所」の開設
3 「優生保護法」の成立
4 「無癩県運動」の継続
5 「韓国癩」への警戒
おわりに

第3章 民主主義下の隔離政策の完成――「らい予防法」の成立
はじめに
1 声をあげ始めた患者たち
2 厚生省・療養所との対立
3 否定されたデモ行進――「らい予防法」の成立
4 「公共の福祉」のための隔離
おわりに

第4章 アメリカ統治下の沖縄・奄美のハンセン病政策
はじめに
1 隔離政策の始まり
2 アメリカ統治下での隔離
3 強制隔離と在宅治療の並存
おわりに

終章 差別の連鎖を断ち切るために
あとがき
藤野 豊(ふじの ゆたか)
1952年横浜市生まれ.ハンセン病市民学会事務局長.専攻日本近現代史.主著に,『同和政策の歴史』(解放出版社,1984年),『水平運動の社会思想史的研究』(雄山閣出版,1989年),『日本ファシズムと医療――ハンセン病をめぐる実証的研究』(岩波書店,1993年),『日本ファシズムと優生思想』(かもがわ出版,1998年),『強制された健康』(吉川弘文館,2000年),『被差別部落ゼロ?――近代富山の部落問題』(桂書房,2001年),『「いのち」の近代史』(かもがわ出版,2001年),『性の国家管理』(不二出版,2001年),『厚生省の誕生』(かもがわ出版,2003年),『近現代日本ハンセン病問題資料集成』(編解説,不二出版,2002~2005年),『忘れられた地域史を歩く』(大月書店,2006年)など.

書評情報

法学セミナー 2007年2月号
しんぶん赤旗 2007年1月14日
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