敗者の身ぶり

ポスト占領期の日本映画

敗戦と占領の重みを負った「ポスト占領期」の映画の登場人物の身ぶりから人々の経験や精神を浮かび上がらせる.

敗者の身ぶり
著者 中村 秀之
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2014/10/28
ISBN 9784000244770
Cコード 0021
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 350頁
在庫 品切れ
1952年4月28日の対日講和条約の発効により日本は「独立」した.しかしこの「独立」は冷戦体制への従属という新たな「敗北」のはじまりでもあった.黒澤明,小津安二郎,成瀬巳喜男らをはじめとする映画の登場人物の身ぶりを通して,敗戦と占領という重みを負った「ポスト占領期」の日本の経験や精神を浮かび上がらせる.

■著者からのメッセージ

本書は,占領期後期から対日平和条約発効後の数年間(1949~1956)を「ポスト占領期」として設定し,主としてその間に公開された日本の劇映画を論じた作品論から成っています.ただし,対象となる時代の特性を総体として把握したり概観したりする企ては最初から意図されていません.もちろんこの時期のもつ意義を重んじればこそ選んだわけですが,時期区分自体は問題設定のゆるやかな枠組みとして用いられています.本書の目的は,作品の理解を通して映画と歴史の関係を考察することにあります.といっても,歴史的事実を映画作品によって説明することをめざしているわけではありません.本書にとって映画は歴史研究の映像資料ではないのです.逆に,映画作品の意味を歴史的事実に照らして解釈することも課題としていません.端的に映画そのものとして感受し,理解しようとしています.画面と音響に注意を集中して見えてくるもの聞こえてくるもの,そこにこそ映画特有の思考が具体化されている,運動と変化,身ぶりとイメージ,それこそが映画の思考の実質にほかならない,これが本書の基本的な姿勢であり,そこで明るみに出された映画独自の思考が現実の歴史にかんする新たな思考を触発すること,これが本書の最終的な願いなのです.
「みんなしずかなもの」―― 一九五二年四月二八日
本書への案内

I 歴史の関をうつす
―― 『虎の尾を踏む男達』(一九四五/一九五二)とポスト占領期の日本映画
1 『虎の尾を踏む男達』(一九四五/一九五二)の神話・事実・寓意/2 ポスト占領期の日本映画

II 絆とそのうつろい
―― 小津安二郎の『晩春』(一九四九)と『麦秋』(一九五一)の抵抗と代補
1 ふたりの紀子/2 「日本的なもの」に屈して――『麦秋』(一九四九)/3 記憶をめぐる闘い――『麦秋』(一九五一)

III 富士山とレーニン帽を越えて
―― 谷口千吉の『赤線基地』(一九五三)における同一性の危機
1 忘れられた「基地もの」映画/2 「『赤線基地』問題」とは何か/3 「反米映画」としての『赤線基地』――アメリカ人の反応/4 同一性をめぐるせめぎ合い――『赤線基地』の闇の奥/5 政治的センセーショナリズムから寓意的な怪獣へ

IV ものいわぬ女たち
―― 黒澤明の〈ポスト占領期三部作〉(一九五二 - 一九五五)の政治的イメージ
1 自己の問い/他者達の問題/2 代行の僥倖――『生きる』(一九五二)/3 復讐の代行――『七人の侍』(一九五四)/代行の極限――『生きものの記録』(一九五五)/6 代行の廃墟で――〈ポスト占領期三部作〉のあと

V 涙の宥和
―― 『二等兵物語』シリーズ初期作品(一九五五 - 一九五六)による歴史の清算
1 娯楽映画と公共の記憶――「ブーム」のポリティクス/2 「二等兵ブーム」を構築する――「ノスタルジアのメタ言説」/3 「アチャラカ」を招集する――「兵隊喜劇」映画の誕生/4 敗軍の兵を許す――映画的荒唐無稽の論理/5 戦争の記憶を商品化する

VI 女が身をそむけるとき
―― 成瀬巳喜男における戦中(一九四一)と戦後(一九五五)の間
1 ニュース映画と国民=国家――『なつかしの顔』(一九四一)と『浮雲』(一九五五)/2 「観なくてもいいような気がしたの」――『懐かしの顔』(一九四一)の幻視/3 無縁の時――『浮雲』(一九五五)のさむけの果てに

付録 「我らを滅ぼせ」
―― 『ビハインド・ザ・ライズング・サン』(一九四三)の「良い日本人」
1 「映画版『菊と刀』」?/2 メイキング・オブ『ビハインド・ザ・ライジング・サン』/3 星のトモダチ――「良い日本人」の誕生/4 自殺する異教徒――共感のパラドクス/6 勝者の想像力の夜の果て

夜のしるし――映画,歴史,救済


あとがき
索引

中村 秀之(なかむら ひでゆき)
1955年生まれ.立教大学現代心理学部映像身体学科教授.映画研究
著書に『映像/言説の文化社会学―― フィルム・ノワールとモダニティ ――』(岩波書店),『瓦礫の天使たち――ベンヤミンから〈映画〉の見果てぬ夢へ』(せりか書房),共編著に『映画の政治学』(青弓社),『甦る相米慎二』(インスクリプト),共訳著に)『アンチ・スペクタクル――沸騰する映像文化の考古学』(東京大学出版会),論文に「特攻隊表象論」(『岩波講座アジア・太平洋5 戦争の諸相』 岩波書店),「喜劇の到来――森﨑東のレジスタンスをめぐる覚書」(『森﨑東党宣言!』インスクリプト),「見えるものから見えないものへ――『社会科教材映画大系』」と『はえのいない町』(一九五〇年)の映像論」(『記録映画アーカイブ2 戦後復興から高度成長へ』 東京大学出版会)など.

書評情報

図書新聞 2015年3月28日号
東京新聞(朝刊) 2015年2月22日
キネマ旬報 2015年2月上旬号
朝日新聞(朝刊) 2015年1月11日
図書新聞 2014年12月20日号
フリースタイル 28号(2014年12月)
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