日露戦争 起源と開戦 (下)

緊迫の日露交渉から軍事行動開始に至るまでを詳細にたどり,上巻から描いてきた開戦までの全過程を総括.

日露戦争 起源と開戦 (下)
著者 和田 春樹
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2010/02/23
ISBN 9784000242684
Cコード 0021
体裁 A5 ・ 上製 ・ 494頁
在庫 品切れ

「帝国ノ大目的ヲ達スルノ機会」を逸するな──高まる日本参謀本部の開戦論.ロシアの戦力を悲観的に見たベゾブラーゾフは露日同盟案を提出し,日本公使栗野慎一郎はそこに最後の希望を見出すが…….緊迫の1903年年明けから翌年2月の軍事行動開始,そして日韓議定書までを詳細にたどり,関係資料を渉猟して開戦までの過程を総括する.

第六章 新路線の登場
第七章 日露交渉
第八章 前 夜
第九章 開 戦
第一〇章 日露戦争はこうして起こった
 あとがき
 註(第六章から第一〇章まで)
 略号一覧
 文献目録
 人名索引
 司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』は,日本海海戦に勝利した直後にも関わらず,一人で子規の墓に参った秋山真之の寂しげな姿を描きながら悲観的な雰囲気の中で幕を閉じている.小説冒頭の,坂の上の青い天に白い雲がかがやくイメージからの落差は何を物語るのだろうか.日本近代史の栄光と悲惨とは――.
 日露戦争はなぜ起こったのか.ロシア史・朝鮮史を研究する者としてこの問いに答えることを使命と考え努力を続けてきた.著者は,ロシアの各文書館で日露戦争に関するロシア側の資料(当時の軍人の報告書その他)を渉猟した.それらからわかるのは,現代の日本人の一般常識的な日露戦争観とも,ロシア人の持つ日露戦争観とも異なる事実であった.なぜ異なるのか.ロシアで読まれ,司馬にも受け継がれた物語は,ウィッテやクロパトキンの,自分には開戦の責任が無いことを主張する,虚飾された自己弁護の書がもとであるからである.
 著者によって発掘された,ベゾブラーゾフ――主戦派政治家として考えられてきた人物――の日露同盟案は,「ロシアの侵略熱に追いつめられての開戦」というこれまでの見方に見直しを迫る.日本はこれを黙殺した.
 日露戦争を全面的に捉えるには,日本とロシアの二国間の関係だけではなく,朝鮮をめぐる戦争であったことに注目し,東アジアの問題として広く考えることが重要である.ロシア側が朝鮮をどう見ていたのか,各資料の記述の分析をし,またそれを朝鮮側の資料とつき合わせた.
 上巻は,東学党の乱(東学農民叛乱),閔妃暗殺,日清戦争などが描かれ,下巻には開戦直前の交渉が詳細に描かれるが,植民地支配の歴史を考えるうえでも非常に重要な時期が,ロシア側の視線とともに語られる点でも注目されるべき本である.
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