プリムローズ・リーグの時代

世紀転換期イギリスの保守主義

労働者はなぜ,いかにコンサヴァティズムに動員されたのか? 保守黄金時代を支えた政治団体の手法に迫る.

プリムローズ・リーグの時代
著者 小関 隆
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2006/12/08
ISBN 9784000246330
Cコード 0022
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 384頁
在庫 品切れ
1880年代の選挙法改正後,大方の予想を裏切り到来したイギリス未曾有の保守黄金時代.労働者たちはなぜ,いかにして保守党支持へと組織・動員されたのか? 巧みな手法と論理によって一世を風靡した政治団体プリムローズ・リーグへの着目により,古くかつ新しいポピュラー・コンサヴァティズム現象に迫る.


■著者からのメッセージ
 19-20世紀転換期のイギリスでポピュラー・コンサヴァティズムがなぜ,いかにして台頭したのか? この問いへの回答を探る本書は,一義的にはコンサヴァティズムの政治文化に関する歴史叙述の書ということになるでしょうが,必ずしも歴史学プロパーの人たちだけでなく,たとえば政治学や社会学に関心を寄せる人たち,さらにはもっと広く,僕たちを取り巻くさまざまな領域で「保守なるもの」が急速に浸透してきていることに戸惑いや違和感を覚え,そして多少ともそれを理解したいと望む人たちにも,興味をもって読んでもらえるのではないかと考えています.1世紀以上前のイギリスの経験でも決して他人事ではないはず,本書の歴史叙述が「保守なるもの」について今改めて考えるための有効な手がかりを提示できていたら,著者としては大変に嬉しいです. 既発表論文の集成ではなく書き下ろしの本ですし,全体にまとまりを与えるよう書き方にも気を使いましたから,最初から最後まで通読してほしい,というのが著者の切なる願いです.とはいえ,多忙をきわめる読者が少なくないことも想像できます.時間に余裕がない場合は,第2章まで読んだうえ,第3,4,5章のうち一番興味を惹かれそうな章に進んでもらっても大丈夫です.また,おもしろい史料が注に回されているケースもありますので,こちらもお見逃しなく.
  久しぶりの単著です.僕なりに全力を投入しました.今となっては至らぬ点ばかりが気になりますが,覚悟を決めて読者からのご批判・ご教示を待ちたいと思います.
はじめに
凡例


■序章 「保守党支配の時代」とポピュラー・コンサヴァティズム

第1節 「保守党支配の時代」とアイルランド自治問題
1 保守党の黄金時代としての世紀転換期/ 2 アイルランド自治問題とユニオニズム

第2節 ポピュラー・コンサヴァティズムとプリムローズ・リーグ
1 「大理石の中の天使」/ 2 プリムローズ・リーグ

第3節 ポピュラー・コンサヴァティズム研究の課題
1 研究史/ 2 本書の課題


■第1章 ディズレイリの記憶

第1節 二つの発端―― 1883年4月19日と1881年4月26日

第2節 プリムローズ・デイの成立
1 ディズレイリの葬儀と「仕掛け人」/ 2 ディズレイリ像除幕式

第3節 プリムローズ・リーグの設立
1 除幕式とランドルフ・チャーチル/ 2 「ディズレイリの遺志を継ぐ政治団体」

第4節 プリムローズ・デイの展開
1 定着と大衆化/ 2 継続と変容

第5節 「ナショナル・ヒーロー」としてのディズレイリ
1 「ナショナル・ヒーロー」の造形/ 2 生きつづけるディズレイリ

第6節 プリムローズの含意
1 ディズレイリという財産/ 2 「伝説」の破綻?


■第2章 プリムローズ・リーグとは?

第1節 変貌する保守党
1 「ナショナルな党」/ 2 ランドルフ・チャーチルの挑戦

第2節 プリムローズ・リーグの前進
1 メンバーシップ/ 2 組織構造/ 3 機関紙/ 4 表象戦略/ 5 保守党との関係/ 6 「同時代で最も大きくかつ広まった政治組織」

第3節 「常識」のコンサヴァティズム
1 「常識」への依拠/ 2 宗教/ 3 国制/ 4 帝国/ 5 「全階級の結集」


第3章 肯定される欲望――プリムローズ・リーグと「快楽の政治」

第1節 選挙制度改革への対応

第2節 ヴォランティアによる選挙運動
1 選挙運動の担い手としてのプリムローズ・リーグ/ 2 有権者登録/ 3 投票依頼/ 4 腐敗行為

第3節 「わかりやすく」「とっつきやすい」政治教育
1 「無知」な労働者に向けて/ 2 ランタン・スライド/ 3 リーフレット/ 4 公開討論会,プライズ・コンペティション

第4節 社交・娯楽の効用
1 コンバインド・システム/ 2 プログラム/ 3 単発的イヴェント/ 4 一体感の醸成/ 5 「たしかに低俗です」

第5節 「快楽の政治」
1 欲望の肯定/ 2 民衆文化のチャンピオン


■第4章 設定される「悪漢」――プリムローズ・リーグとアイルランド自治問題

第1節 自治法案の時代

第2節 自治をめぐる論点
1 国制への脅威/ 2 帝国への脅威/ 3 私有財産への脅威,その他

第3節 プリムローズ・リーグの自治反対論
1 労働者へのアピール/ 2 集会での発言/ 3 教育・宣伝文書/ 4 ランタン・スライド

第4節 「悪漢」を叩く快感
1 主役と脇役/ 2 自治反対論のアピール力/ 第5節 自治反対論の受容

 補遺 二極構図の基盤――人種と宗教


■第5章 組織・動員される「未開拓領域」――プリムローズ・リーグと女性の政治参加

第1節 女性,保守党,プリムローズ・リーグ

第2節 デイムと女性アソシエイト
1 「プリムローズ・デイム」の登場/ 2 支部における活動/

第3節 「女らしさ」と政治参加
1 政治参加への反発/ 2 「女らしさ」の主張/ 3 サフラジスト,リベラルとの対比

第4節 女性参政権へのスタンス
1 女性参政権とプリムローズ・リーグ/ 2 女性参政権と保守党

第5節 女性参政権とコンサヴァティズム


■終章 「保守党支配の時代」の終焉とプリムローズ・リーグ

第1節 「保守党支配」の翳り
1 「コンサヴァティズムの危機」/ 2 プリムローズ・リーグの行き詰まり

第2節 関税改革,貴族院,アルスター
1 関税改革運動の波紋/ 2 「人民予算」から貴族院改革へ/ 3 切り札としてのユニオニズム?

第3節 結語
1 変わりゆくプリムローズ・リーグ/ 2 ポピュラー・コンサヴァティズムの行方



あとがき
史料・文献リスト
人名索引


小関 隆(こせき たかし)
1960年生まれ.一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学.現在,京都大学人文科学研究所助教授.イギリス・アイルランド近現代史.
『一八四八年――チャーティズムとアイルランド・ナショナリズム』(未來社,1993),『記憶のかたち――コメモレイションの文化史』(共編,柏書房,1999),『世紀転換期イギリスの人びと――アソシエイションとシティズンシップ』(編,人文書院,2000)ほか.

書評情報

図書新聞 2007年4月14日
図書新聞 2007年4月14日号
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